「宇宙生命、そして『人間圏』」 松井 孝典著

「地球にやさしい」という発想が、どれほど無理解で傲慢かということをみんなが知れば世界を少しは変えられるかもしれない。

宇宙生命、そして「人間圏」 (Wac bunko)
 著者の松井先生は、太陽系内の惑星(天体)の起源・進化・現状などを研究し、地球と比較検討することで、地球、さらには宇宙の成り立ちを究明する「比較惑星学」なる分野を切り拓いた世界的な惑星物理学者である。宇宙を研究するということには、必然的に、宇宙に生まれた私たち自身の出自を明らかにしたいという欲求が隠されているにちがいない。この本では、地球や宇宙についての驚きと発見にあふれた話に加えて、「人間(生命)はどこから生まれたか」「私とは何であるか」といった哲学的な問題に関する考察や「人間の未来」についての賢察が、宇宙や生命の歴史を踏まえて語られている。
 人間を中心とする世界??すなわち松井先生言うところの「人間圏」など、地球全体のシステムに包含される「サブシステム」にすぎない。したがって温暖化も食糧危機も人間が困るだけで、地球は何も困らない。46億年の歴史の中で、生命が絶滅に瀕する危機を地球は少なくとも7回以上経験しているという。先般のサミットでは、アメリカ、中国などこれまで温暖化に消極的な国々も積極的な姿勢を見せたが、日本を含め、そこで目標とされた数値など焼け石に水だということを世界中の人が理解すべきだ。
 また、人口100億になれば現在の豊かさ(1990年レベルのアメリカの食生活)を維持できるのはせいぜい100年だと松井先生は試算されている。この100年で世界の人口は4倍の60億となった。このまま行けば21世紀末には確実に100億となると小学生でも計算できる。つまり地球にとどまる限り、人類の未来はせいぜい200年ということになるのである。
(初出 BK-1 2007/06/21)