スター誕生! USOPEN 3回戦。錦織圭対フェレール(6-4、6-4、3-6、2-6、7-5)

こうしてスターは生まれる

 いやあ、勝ちました! TVとはいえこの試合をLIVEで見れたのには感動しました。ベスト16は71年ぶりの快挙だそうです。
 2セットを連取しましたがトップ10クラスの選手から5セットマッチで勝つのは本当に楽じゃないので、相手のサーブの調子がよくないうちに、できればなんとか第3セットで決めてくれと思って応援してましたが、やっぱり簡単ではありませんでした。
 1,2戦と違って、錦織は1,2セット、サーブが絶好調でした。ファーストの確率は70%を超え、サーブの威力、コースともこの試合が一番良かったと思います。第3セットなぜか白いキャップをかぶって登場。トレードマークっぽくなっていたこのキャップ。ナイト・セッションではやはりかぶらないんだな、と思って見てたんですが、気合いを入れなおしたのか、少しでも余計なものが目に入らないようにして集中を高めるつもりだったのか。結局最後までかぶってました。

ダビド・フェレール

 2セット・ダウンして、さすがのフェレールも死ぬ気でプレーを始めたという感じでした。第3,4セットを「おれにも少しはやらせろ」ってな感じで連取。特に第4セットは、例によって錦織は体力的にもきつかったようで、自分のサーブをことごとくブレイクされ、スコア上はボロボロでした。
 フェレールもちゃんと試合を見るのは初めてでしたが、基本的にはベースライン・プレーヤーでネットにはめったに出てこない。回り込んでのフォアの逆クロスがウイニングショットというところは錦織と共通していますが、錦織ほどショットやプレーに幅がない。そのかわり、1つ1つのプレーは確実で、ミスが少なく、とにかく粘り強く拾ってフォアのウィニングショットに持っていく。自分の得意なプレーの質を磨き上げてきたところに彼の強さがあるんだろうと思いました。いい選手ですね。さすが世界ランク4位です。
 プレーぶりもなかなか良かったです。窮地では、何度か大きな声でぶつぶつ言って審判に怒られたりしてましたが、相手や審判に何かを言っているわけではない。プレー中もナダル並みの大声を1プレーごとに出していましたので、声がでかいのは彼のスタイルなんでしょう。コートに出ていくのも常にフェレールが先で、マナーのいい選手だと思いました。まじめな選手なんだと思います。
 ただ、おそらく世界4位とはいえ、上位の2に人−−もちろんナダルフェデラー−−とはだいぶ差があるようにも思います。ジョコビッチなどもそうですが、努力家で、敬意を惜しみませんが、ひらめきとかはあまり感じない。立派なプレーぶりですが、もうひとつ見ているものを熱くさせない。サプライズが少ない。

錦織圭は観客を熱くさせる

 錦織はその点、観客をはっとさせるプレーを随所に見せてくれます。人を食ったようなドロップショット。この試合で何度か見せたロビング。積極的にネットにも出て行きました(残念ながらほとんどポイントにはなりませんでしたが)。
 彼は常に考えています。常にチャンスを狙っている。そして、だからこそ、次々アイデアがわいてくるんでしょうね。そしてそれを実際にプレーに反映させ、高い確率で成功させる技術とセンスを持っています。天才的です。
 2-2の後、錦織はメディカル・トレーナーを、またしても呼びました。今回も痙攣していたようです。前と同じ両太腿の前側と、背中側の腰のあたりのマッサージを受けてました。足を引きずるような仕草はなかったのですが、第4セットはつまずいたり、足を滑らせたりしていたので、そういう影響が多少あったのかもしれません。
 第4セットは短めのスライスを使ってみたり、3セット目までにはあまりなかったプレーを「試し」ている風もあったので、あきらめたわけではないが、いろいろ手を打ってみて、第5セットにとにかくすべてをかけよう、そんな戦略だったのではないかと思います。サーブの確率も50%台に落ちていました。
 だから、メディカル・トレーナーを呼んだのも、むしろ予防的措置として、「とにかく第5セット、自分の全力を集中させよう」という気持ちの表れだった気がします。最終セットの前、彼はユニオンジャックが描かれたノートを捲って、そこに書かれた言葉を頭に刻み込んでもいました。

よく勝ち切りました。

 錦織の行動に油断したというところが少しはあったのかもしれません。錦織が先に相手のサービスをブレイク。1度はマッチ・ポイントさえ手にしながら、土壇場でブレイク・バックを許し、5ゲームズ・オール。「いやあ、トップ10の選手から最後の1ポイントを奪うのは何と難しいことか。錦織もこれでチャンスをふいにしたかもしれないな」と正直思いました。
 ただ、錦織の表情は意外に落ちついてました。このセット、追いつかれたとは言え、彼のサービス・ゲームから始まったので、先行を許していない、それが精神的によかった気がします。
 自分のサービスをなんとかキープして6-5と先行。US OPENは第5セットもタイブレークを採用しているので、次のゲームを落としてもタイブレークがあるという心理的な優位さを錦織にもたらしたに違いありません。逆にフェレールにはプレッシャーとなったでしょう。最後の力を振り絞って、錦織はデュースから2度目のマッチポイント(だったと思います)をものにしました。
 新たなスターが、日本人から誕生した瞬間でした。久しぶりに興奮しました。ウィンブルドンのグラフをあと一歩まで追い詰めた伊達さんの試合以来かもしれません。
 次の試合はファン・マルティン・デル・ポトロとの対戦が決まっています。第17シードですが、直前までツァーを4連勝してきているとかで、大変期待されている選手のようです。ここまで来たらいけるところまで頑張ってもらいたいですね。