2010-01-01から1年間の記事一覧

いったんキリをつけたいと思います。感謝とささやかな「お知らせ」

2005年11月15日から始めたこのブログ。まる4年が経過したことになります。 「はてな」は割と硬派なブログなので、最初は少し苦労しましたが、その分いろいろ勉強させてもらった気がします。力不足であまり身にはなっていないのが残念ですが。 とにかく、初め…

「サミング・アップ」  モーム著  行方 昭夫訳

この本の内容を1600字で紹介するのは不可能である 「月と六ペンス」「人間の絆」は中学・高校の頃読んでいて、モームは好きな作家だったにもかかわらず、この本の存在をつい最近まで知らなかった。 これはものすごい本である。64歳、当時としては人生…

「宇宙生命、そして『人間圏』」 松井 孝典著

「地球にやさしい」という発想が、どれほど無理解で傲慢かということをみんなが知れば世界を少しは変えられるかもしれない。 著者の松井先生は、太陽系内の惑星(天体)の起源・進化・現状などを研究し、地球と比較検討することで、地球、さらには宇宙の成り…

「アンネの日記 増補新訂版」 アンネ・フランク著  深町 真理子訳

過酷な運命と引き換えに残された人類の宝物。戦争の理不尽さを嘆くだけではもったいない。 アンネ・フランクという少女の、13歳から2年余りにわたる日記が貴重なのは、それがアンネとアンネの家族および彼女を取り巻く人々の死と引き換えにこの世に送り出さ…

「東京奇譚集」 村上春樹著

天才的職人の技に気軽に酔いしれる幸福 この本を手に入れたのはずいぶん前のことだ(というわけでもう文庫になっちゃってるんですね)。最初の「偶然の恋人」を読み、期待通りの面白さに舌を巻き、次の「ハナレイ・ベイ」を十分に味わい、満ち足りた気持ちに…

「14歳からの哲学」 池田 晶子著

14歳でこの本を手に取るチャンスを得たあなたは幸せだ もう5年も前に出た本だし、著者の早すぎる死とも相まって大きな話題にもなったので、この本についてはすでに多くの書評や感想が出尽くしている感がある。好意的な意見があり、批判的な意見があり、この…

「グレート・ギャツビー」 スコット・フィッツジェラルド著 村上 春樹訳

村上春樹渾身の訳業がさらにくっきりと浮かび上がらせたフィッツジェラルドの天才。 たったの29歳でこの小説を書いたというのは信じがたい。そして1940年、たった44歳で死んでしまった。まさに波乱の人生であり、フィッツジェラルドは早足で時代を駆け抜けた…

「オシムの言葉」 木村 元彦著

オシムの魅力を余すところなく伝え、ユーゴの戦火と現代をつなぐ糸を鮮やかに浮き彫りにしたすばらしいノンフィクション。 「オシムの言葉」というタイトルから、オシム語録的なものを−−ジェフのHPにあったような−−をイメージしていたが、全然違った。 この…

「14歳からの仕事道」 玄田有史著

これまで玄田さんの発言を読んできたものにとって、この本の中に新しい発見はそれほど多くないし、「14歳の」とあるにしては多くの14歳にとって、理解するのはなかなか難しい内容だと思う。漢字にルビが振ってある以外、中学生一般向けの内容とは言いがたい…

「逆シミュレーション音楽」をめぐって(2)

その2 西洋音楽とロマン派 三輪さんにとって自明だった次の2つの前提を「疑ってみる」ことから「逆シミュレーション音楽」が発想されたという。 (1)西洋音楽が音楽のすべてである (2)ロマン派の音楽概念が西洋音楽のすべてである クラシック音楽に興味…

「逆シミュレーション音楽」をめぐって(1)

その1「What is Reverse-Simulation Music?」 三輪眞弘氏のアルス・エレクトロニカ賞グランプリ受賞記念講演「The Long and Windingroad」(と確かおっしゃっていました)を聞く機会があり(http://d.hatena.ne.jp/Uu-rakuen/20070625/p1)、たいへん興味を…

「また会う日まで 下」 ジョン・アーヴィング著 小川 高義訳

事実という「曖昧な記憶」によってこの世界が形作られている以上、唯一絶対の真実などはない。自分の物語を「信じられる」ようになれば、すなわちそれが真実となる。 上巻の後半でもすでに母・アリスの影響は薄くなって、物語の中心はジャック自身へと移って…

「また会う日まで 上」  ジョン・アーヴィング著  小川 高義訳

私がいまさら言うまでもないことは重々承知の上だが、アーヴィングの作品は、現代作家の中では圧倒的に面白い。この作品に対してもその評価はいささかも揺るがない。 アーヴィングの世界は、(少なくとも私には・良くも悪くも)そこに生きているのが真っ当だ…

明日を信じてチャレンジする勇気−−上原ひろみ、羽生善治。

上原ひろみのコンサートについては以前にも書きましたが(http://d.hatena.ne.jp/Uu-rakuen/20051125)、この本を読んで改めてそのすごさに圧倒されました。彼女は常に全身全霊を傾けて音楽に取り組んできたことを私は信じることができます。彼女のコンサート…

平出隆著「ウィリアム・ブレイクのバット」

山崎ナオコーラの「人のセックスを笑うな」について、「タイトルを見ただけで、もう賞(文藝賞)はこの人に決まりだと思った」という趣旨のことをどこかで高橋源一郎が言っていた。この本のタイトル「ウィリアム・ブレイクのバット」を目にしたときの「これは…

平尾という男、やはり只者ではない。

私のラグビー観戦歴において平尾誠二は最大のスターだった。ほとんどのゲームをリアルタイムで見てきた。この本の中には「あのとき、平尾はそんなことを考えていたのか」というような話もいくつもあって、それも興味深かった。 95年平尾は神戸製鋼で7連覇を…

「国のない男」 カート・ヴォネガット著 金原 瑞人訳

これはヴォネガットの「サミング・アップ」である。 今年(2007年)の4月に84歳で亡くなったヴォネガットが82歳のときに書いた最後の本である。本書の一節。 「『進化』なんてくそくらえ、というのがわたしの意見だ。人間というのは、何かの間違いなのだ。わ…

「ユートピア」 トマス・モア著 平井 正穂訳

政治家や経営者にこそ、今まさに読んでもらいたい。モアが命賭けで作り出した世界の理想に学ぶべきことは多い。 期待以上に面白く読んだ。ここで示されたモアの理想の世界像が、結局のところ21世紀の現代でも、いまだに求められる理想であり続けていることは…

「うるわしき日々」 小島 信夫著

小島信夫の自在さが体現する「小説の可能性」 最近ケータイ小説なるものがはやっている。2007年のベストセラーの上位を占めるという。中心的な読者は女子高生。等身大の主人公に起こる不幸や悩みに自分の姿を重ね合わせ、困難に立ち向う姿に共感し、時に涙す…

「垂直の記憶」 山野井 泰史著

山野井泰史は登山界のベートーヴェンであり、宮沢賢治である。 山野井夫妻のことはあるTVの番組で知った。2人とも命と引き換えに凍傷で多くの指を失っている。しかし、指を失ったことなど人生を生きる上でたいしたことではないとでもいうように二人の語る…

「69」 村上 龍著

最高に楽しい小説だと思う こういう小説にはほかに言うことは何もない。あなたが、こんなに面白い小説をまだ読んでいないなら、一刻も早く本屋に行き、この本を買い、家に戻り、夕飯を早めに済ませてから、表紙をめくってもらいたい。くれぐれも電車の中で読…

「宇宙で地球はたった一つの存在か」 松井 孝典編著

この本をテキストに「宇宙学」「地球学」を学生の必修科目としてはどうか タイトルのとおり、本書のテーマは地球あるいは人間という存在が「普遍的」なのか「特異的(特殊)」なのかの探求にある。なぜそれが重要な問題かといえば、特殊な存在ならば、私たち…

「チェ・ゲバラの遙かな旅」 戸井 十月著

+チェ・ゲバラについて書かれた本を初めて手に取る読者にもお薦め この本は、チェ・ゲバラという男に強く共感する作者によって書かれた伝記であり、できるだけ客観的に書こうという努力を私は認めるけれど、それでもなお本書のチェ・ゲバラはカッコ良すぎる…

「運命ではなく」 ケルテース・イムレ著 岩崎 悦子訳

強制収容所にも日常があり幸福もあるように、日常にもアウシュヴィッツはありうる。 アウシュヴィッツでの体験を元に書かれた小説だというのがこの本を手にした元々の理由だった。私はアウシュヴィッツについてももっと多くを知りたいと思っていた。アウシュ…

「生きることを学ぶ、終に」  ジャック・デリダ著 鵜飼 哲訳

「死」こそが「生」を学ぶ唯一の場であるらしい、ということ。 まず初めに、鵜飼哲さんのすばらしい訳と文章に敬意と感謝を申し述べたい。 死という現象の及ぼす力は、「生き残った」生者の側に??死んだ側にではなく??のみ、多くの場合悲しみや怒りとしても…

「13歳は二度あるか」  吉本 隆明著

「13歳」へのプレゼントには不向きかもしれない 今年13歳になる姪がいて、彼女にプレゼントしようと思って読み始めた。しかし、読み終えてみて、プレゼントしようかどうか迷っている。 内容的には人が生きていくうえで最も重要なテーマをいくつも含んでいる…

「写真ノ中ノ空」  谷川 俊太郎詩 荒木 経惟写真

空を撮っても荒木の写真はすばらしい この写真のほとんどが、どうやら陽子が死んだ直後に「空ばかり写していた」当時のものらしいと、癖のある字で書かれたあとがきを読んで知り、陽子を思う荒木の気持ちを思って切なくなった。 電信柱と電線の感じから同じ…

「小説修業」 小島 信夫著 保坂 和志著

小説に未来はある??と信じたい。 面白かった。面白すぎてあっという間に読んでしまって、快感という点では、たとえば村上春樹のエッセイを読んでいる時間の幸福感に似ていた。 この本は、保坂和志と、保坂が「先生」と呼ぶ小島信夫との往復書簡という体裁の…

ゲルギエフ、そして上原ひろみ。2009年書きそこなった2つの演奏会。

初めてのゲルギエフ。初めてのロシアのオケ。 昨年(2009年)行ったコンサートで、このブログで書くつもりでいながら書けなかったものが2つあります。 1つは、ゲルギエフ指揮マリインスキー歌劇場管弦楽団のチャイコフスキー・プロ。11月27日、愛知県芸術劇…