内藤大助・亀田興毅。WBC世界フライ級タイトルマッチ。

ボクシング・ルール上は内藤の完敗

 試合は判定に持ち込まれ3-0で亀田が勝った。ポイントにも明らかな差が付いていたし、内藤本人も完敗と言っているわけだから、試合上はこの一戦、明確な決着がついたといえる。
 試合後の両者の顔を見れば、ダメージもしくは的確なヒットの差も歴然。内藤の鼻が折れ曲がり大きく腫れ、試合前とは別人になっているにもかかわらず、興毅の顔はほとんど変化がない。

内藤にはもう一回挑戦してほしい

 だがしかし、内藤側から見れば(つまり内藤を応援する人から見れば)、ダウンに至るような大きなダメージ、決定的なパンチをもらったわけでもなく、「それでも手数やテクニックで差がつき勝敗が決まるのが近代ボクシングであるスポーツというものである」と言われれば、それまでだが、プロの世界戦、かつ両者の生きざまのある意味すべてをかけた戦いは−−観戦者として勝手を言わせてもらえば−−どちらかが倒れるまでやってほしい。

フェアでクリーンかつレベルの高いファイトだった

 試合は実にフェアだった。内藤は、気合が入りすぎているという点でいつもとは明らかに違っていた。しかし身体の仕上がりはこれまでになくいい感じだった。より大きくなったように見えた。
 興毅は興毅で、いつものような見下した態度ではなかった。内藤を少なくとも思った以上に強いと感じたんじゃないだろうか。
 終始内藤が仕掛け、興毅が受けから的確に隙をついてパンチをさせていた。ボクシング自体は正確さと、一瞬のスピードで興毅が上回っていたと思う。
 判定結果が出た後の興毅の態度も言葉も良かったと思う。ああいう素直な感じが、実はこの男の素顔なんじゃないかと言う気がする。「(チャンピオンは)内藤は強かった」と言ってくれてよかった。内藤は「期待にこたえられなくて情けない」と言ってたようだが、立派なファイトだったとだれもが思っただろう。

世の中は図式化する

 物事を図式化するのは何事においてもあまりいいことだと思わないが、それでもあえて言うなら、完膚なきまでにやり込められたわけでもないのにこのまま終わってしまったら「いじめられっこがやっぱりいじめっこに負けちゃっておしまい」みたいな感じがしてしまわないだろうか。
 「物事を図式化するのは何事においてもあまりいいことだと思わない」と最初に書いたが、世の中はそうではない。世の中は細かいことなど忘れて図式化する。図式化したほうが分かりやすい気がするし、それですべて正しいような気にさせることができるからだ。
 初めて拳を交えただけなのだ。確かに内藤のこれからの1年は肉体的には衰え行く1年で、亀田の1年は充実への1年で、何もしなければ差が広がるのが道理だろう。
 でも人生をかけた戦いにはそんなものは関係ないんじゃないか?「この1戦にすべてをかけて望んだからもうやることはない」そう本人が思えるならそれもまた良い、とすべきで、他人がとやかく言うことではないと思うけれど。

 いずれにしても、すばらしい戦いだったと思います。2人のボクサーに感謝します。