東京バレエ団のベジャール・プロを観てきました。感動!

 愛知県芸術劇場での「ペトルーシュカ」「ギリシャの踊り」そして上野水香の「ボレロ」という魅力のあるプログラム。今回のシリーズ最後の公演でもありました。ストラヴィンスキーの「ペトルーシュカ」、ラヴェルの「ボレロ」は大好きな曲です。もともとバレエ音楽なので、ぜひバレエで観たいとおもっていました。しかも現代バレエで一時代を築いた鬼才ベジャールの振り付け。期待を上回る舞台でした。
 圧巻はなんといっても「ボレロ」。上野水香の肉体と踊りが表現するものは、生命の持つ力強さ、静けさ、清潔さ、簡潔さなど、東洋、アジアの文化・精神の最も美しい部分を体現していると思いました。「東洋のヴィーナス」とヨーロッパで評されたのは当然です。中央に配された赤い円形テーブルとサイドに並べられた椅子だけのシンプルな舞台装置。音楽の力強さと流れのままに任せたシンプルな演出でしたが、それで十分でした。余計なものを足すのはマイナスにしかなりません。全体の演出も見事でした。
 「ギリシャの踊り」は初めて聞く曲。表題の通り、民族性を漂わせたシンプルで喜びに満ちたもので、それが逆に踊りの面白さをひきたてていた気がします。主役を踊った首藤の踊りの正確さ、滑らかな動きにはほれぼれしました。ほかのダンサーたちもすばらしかったと思います。始まりと終わりのエーゲ海潮騒を思わせる美しい演出、ユーモアにあふれた動きとリズムは楽しくて、何度も笑ってしまいました。
 「ペトルーシュカ」は期待が大きかったせいか、もうひとつ面白くありませんでした。「ペトルーシュカ」だけが、ストーリー性のある演目だったのと少なからず関係があるのかもしれません。
 20世紀初頭、センセーションを巻き起こしたディアギレフ率いるバレエ団でしたが、「ストーリーがある」にもかかわらず、「ストーリーがわかりにくい」舞台芸術は、21世紀のわれわれには、心から楽しむ魅力に乏しいのかもしれません。あるいは知性や想像力が鈍っている証左であるのかもしれません。このわずかな不満足感はストラヴィンスキーベジャールのせいではないでしょう。
 以前ロシアの名門劇場の公演でこれも曲としては大好きな「くるみ割り人形」を観た時にも感じたことです。最高レベルのバレエでも、むしろ退屈だった記憶があります。私は素人なのでそれぞれの踊りの難しさはよくわかりませんが、ダンサーの出来も、他の二つの舞台に比べると、少なくとも今日はやや正確さに欠けていた気がします。
 ただ、衣装の鮮やかさには目を奪われましたし、鏡を使った舞台演出も、今では目新しくはないけれども、非常に美しく、完成度の高いものでした。大作ですし、表現すべきものが複雑なだけに、技術的な難易度も高いのだろうと思います。
 いずれにしても、現代バレエ(でももうないのかもしれませんが)をこんなに楽しめたのは、東京バレエ団の技術の高さとともに、バレエ初心者の私にはちょっとしたサプライズにちがいなく、また機会があれば観たいと思わせるすばらしい舞台でした。