ロバート・ケンドリックはなぜ237位なのか?

 4年に1度しか見れないサッカー・ワールドカップの破壊力はあまりに強力で、すっかり影もないが、実はテニスの最も権威のある大会「ウインブルドン」も開幕しているのだった。
 「杉山愛が、森上亜希子との日本人対決を制して3回戦に進出」というニュースは新聞で読んでいたが、ほかには「フェデラーがちゃんと勝っているな」とか、「シャラポワはまだ負けていないか」とかいったことがかすかに気になる程度で、私もろくに試合を見ていなかった。

フェデラー好き

 シャラポワというスターが出てきたが、女子は力が拮抗していて、圧倒的なプレーで観衆をひきつける大スターが不在。男子はようやくフェデラーナダルが抜きん出てきた感があるが、フェデラーは実力に比べてなぜか人気がない。
 私は彼の大ファンである。無駄のない正確なプレーで、はったりがない。しかし優勝すると泣いたりする。そういうところが気に入っている。
 今ではウインブルドンが4大大会で唯一男女の優勝賞金に格差のある大会なのだそうだ。その理由として「男子は5セット、女子は3セット・マッチ」ということを、主催者側は根拠にあげているという。女子選手からはおおいに反発があるらしい(私には、それも正当な理由になると思うのですが、どう思います?)。
 その件について意見を求められたフェデラーは、「そうなの?でも、どっちにしても大金なんでしょう?」とそっけなかったそうだ。その感覚も私はとても好きだ。
 日本人にとっては、松岡修造も伊達さんも引退し、杉山のダブルス以外あまり関心がない(それも多くの日本人にとって関心があるかどうかわからないけど)。そういうわけで、テニス自体あまり盛り上がっていないのはやむをえないところだと思う。
 もうひとつ、個人的にファンである、美しすぎるテニスプレーヤー(とてもテニスが強いとは思えない)ハンチュコバの動向が少々気になるが、この話題は逆にマイナーすぎて、ほとんど報道されないので、どうなってるかさっぱり不明。しかし、この大会も杉山とペアを組んで出場していると思うので(してますよね?)、日本ではダブルスでメディアに登場してくれるものと期待している。

ボレー、両手打ちとテニスの未来

 ボルグの登場以来、そしてマッケンローがいなくなってから、ベースライン・プレーヤーばかりが増えて、結果としてテニスはつまらなくなったと思う。なぜかは私にはよくわからないが、ベースラインからあまり動かないほうが勝つ確率が高いからだとはなのだろう。ラケットの先を鮮やかにすり抜けてオン・ザ・ラインに決まるパッシング・ショットはスカッと気持ちがいいことは認めます。ただ、分が多少悪かろうと、あえてそれに挑む選手がいてほしいし、ボレーという技術、スタイルはテニスの大きな魅力であるはずで それを使わないというのはテニスというスポーツの未来にとっても後退につながりかねないと思う。多様性はどの世界でも重要だからだ。
 最近はまたサーブ&ボレーを得意とするプレーヤーが増えているのかもしれない。ただ、そういう話は実際のところあまり聞かないし、パット・キャッシュあたりが成功を収めた最後のボレーヤーなのではないかという気がしている(もうけっこう昔の話だなあ)。むしろ芝の王者フェデラーはボレーも多用するが、彼はボレーヤーのイメージではない。すべてのプレーを高いレベルでこなしてしまうからだ。
 ついでに言えば、クリス・エバート以来、女子では両手打ちが全盛となり、男子でも両手打ちの選手が圧倒的に多いのではないだろうか? 正確なストロークに有効だからなのだろうが、非力な女性だからこその両手打ちなのではないかと私は理解している。男はやっぱり(プロなら尚のこと)バックも片手で打ってほしい。女子でもエナンあたりは片手打ちだったんじゃないだろうか?
 片手打ちで、オールラウンドなプレーヤーであるフェデラーが好きな理由がそこにもある。

あなたはロバート・ケンドリックを知っているか?

 私は知らなかった。BSハイビジョンをつけたら、ナダルの試合だったので、そのまま見ていたら、なんと第一セットを落とし、第2セットも1ブレークダウンだという。相手は帽子を後ろ向きにかぶっていて、「まさか2回戦でヒューイットとやってるのか?」とわけがわからなかった。最近のテニス事情に疎いので、「そんなに順位を下げたのか」と驚いた。私はヒューイットという選手がどうも好きになれない。偏見かもしれないが。いや偏見にちがいないが。
 ところが彼はオージーではなく、アメリカの選手で、名前はロバート・ケンドリック。聞いた事がないが、(くどいようだが最近のテニス事情に疎いので)最近のし上がってきた有望選手かと思った。解説を聞けば、26歳で、ランキング237位、予選を勝ち上がって、このウィンブルドン1回戦での勝利が4大大会初勝利だという。
 男子テニスではこういうことがたまに起こる。トップ選手と200位の選手の技術的な差は順位の差ほど大きくないとはよく言われるところだ。しかし、ランキング2位、先のフレンチオープンでフェデラーを破り2連覇を飾ったナダルを相手にしているというのに、試合を見る限り、彼のプレー振りは落ち着き払っている。(聞き間違え出なければ)190センチ台の長身からビッグ・サーブを繰り出し、ナダルから数十本ものエースを奪っていた。最近少なくなったサーブ・アンド・ボレーのプレースタイル。ドロップボレーなど小技も冴えていて、ナダルは2セット目も失った。
 3セット目も互いにサービスゲームをキープしたままタイブレークに突入。ナダルも、2回戦で3-0で負けるわけにはいかないので、必死だった。最後の数ゲームは、それこそ1本決めるごとに声を上げ、派手なガッツポーズを決めて、自らを鼓舞しているように見えた。
 ナダルの調子もそれほど悪いようには見えなかった。実際のところ、この3セットで落としたサ−ビスゲームは、第2セットの1ゲームだけで、後はすべてサービス・キープなのだった。こういうところがテニスの勝負の妙味である。
 第3セットのタイブレークナダルは集中していた。ランク2位はだてではない。逆に、わがケンドリックは自信なさげな顔になったように見えなくもなかった。
 結局、第3セットはナダルが取って、セットカウントを1-2とした。 余談だが、このあと二人でコートから通路に消えたので、「あれっと、男子のゲームは3セット終わったところで、休憩を取るんだっけ?」と馬鹿なことを思っていたら、「両者そろって、ここでトイレット・ブレークを取りました」と、アナウンサーがタイムリーな説明をしてくれた。なるほど。

ケンドリックは勝っただろうか?

 そしてこのブログを書き始めたので、私は結果がどうなったか知らない。5セットまでもつれたとしても、もう終わっているはずだ。解説の福井さんが「スタミナがナダルの武器の一つでもある」とおっしゃっていた。ケンドリックは負けたかもしれない。しかし、あのプレーが続けられれば、少なくとも芝のコートでは、トップランクの選手に劣らないポテンシャルを持っていると思った。こんな選手がなぜ237位なのかまったくわからない。いくつかのアンラッキーが、彼のテニス人生の長きにわたって重なったとしか思えない。
 私は、この3セットを見て、「この試合をきっかけにブレークする」と思い、最近のテニスに関心が薄れてしまったテニスファンにぜひケンドリックに注目してもらいたいと思った。
 しかも、彼はあのイングランドのスター ベッカムに似ている。ただひとつ、あの帽子のかぶり方だけはやめたほうがいいと私は思うのだが。
 明日の新聞を楽しみに寝ることにします。