パレイラは厳しい批判にさらされるだろう。

⑫ブラジル対フランス(0-1)

最強チームゆえの2つの死角

 死角はないと思っていたが、やはりブラジルは油断していたと思う。1つには、これまでと違うシステムで臨んだことだ。フォワードをロナウド一枚にして、ロナウジーニョを上げた。パレイラは、ここまでの内容から、無得点で、確かに期待に比べればやや物足りないロナウジーニョのパフォーマンスに、「もっとできる」と思ったのかもしれない。
 ただブラジル全体としては全勝だし、事実はそう悪くなかったはずだ。
 2つ目は、ジダンを甘く見ていたと思う。フランスはロナウジーニョを甘く見えはいなかった。ポジションを前にあげたために、ゴールに近い位置にいるから、よりマークがきつくなったともいえるんだろうが、フランスはロナウジーニョには、2人、3人をかけて仕事をさせなかった。しかし、ジダンのマークは1人もしくはせいぜい2人で、しかもこの日のジダンの動きはすばらしく、自らも動いてボールをもらい、いわばやりたい放題で、観ているほうとしてはこの上なく楽しかった。

絶好調のジダン、そして攻める姿勢を貫いたドメニク監督

 0-0の後半12分、ジダンのFKは、ファーサイドに走り込みフリーとなったアンリの足元へ。ボレーシュートがゴールに突き刺さった。パレイラはようやく、アドリアーノを投入。下がったロナウジーニョはやっとボールに触る機会が多くなり、34分にはロビーニョも投入し、怒涛の攻撃が始まったが、時はすでに遅かった。
 後半41分、アンリに代えてサハ(どんな選手か知らなかった)を投入した時には「ドメニク監督も守りを固める轍を踏んだか」とヒヤリとしたが、サハはフォワードだった。この試合でも精力的な動きで貢献したリベリ(会場にいたジョルカエフも画面に映し出されていた)の交代もFWゴヴー。ドメニク監督は攻めるサッカーを貫いた。それが勝利を呼び寄せたと思う。
 ロナウドも死ぬ気で戦い、何本もシュートを放ったが、フランスの守備は本当に堅かった。

誰もがジダンを尊敬していた

 試合終了後、一人、また一人とジダンのもとに選手たちが駆け寄り、抱き合う姿にはグッときた。このチームの誰もが、ジダンを尊敬し、一試合でも多くジダンと一緒にプレーしたいと思っているんだと思う。このまとまりこそフランスの大きな武器であり、特にグループリーグでは仲間のプレーに大声で注意を喚起し、指示を出し続けたことが決勝トーナメントに入って実を結んだ気がする。

ジダンと中田、そしてフランスと日本

 中田も同じように声を出し続けたが、日本は実を結ぶどころか、崩壊してしまった。一言で言えば、中田はジダンのようには尊敬を集め切れなかったということなのではないだろうか。それは中田が悪いわけではない。中田はできることをすべて出し切ったと思う。ブラジル戦後の中田の姿がそれを物語っている。いかに中田とはいえ、年齢、キャリア、どれをとっても、不世出の天才ジダンと比べられてはたまったものではない。ジダンは特別な選手なのだ。しかも、今大会が最後という特別な事情までもそこに加わっている。
 さらに言えば、メンバーの能力にもフランスと日本では残念ながら差があった。日本はもっともっと一人一人がタフになる必要が−−W杯という舞台で戦い抜くためには−−ある。