フランスの優勝を確信した

⑬準決勝 フランス対ポルトガル(1-0)

試合前、ジダンフィーゴはしっかり抱き合った

 ワールドカップの準決勝という舞台で、この両雄のいる両チームの対戦が観られるなんて、なんと幸せなことだろう。レアル・マドリードの僚友でもあった2人の英雄は、キャプテンとして握手をした後、がっしりと抱き合った。
 ポルトガルのパスは、相変わらずすばやく、かつ強く正確で、好試合への感触が一気に高まる。勇気を持って縦パスをどんどん入れてくる。左ロナウド、右フィーゴがドリブルで持ち込む。だが、身体的な強さではフランスに分がある。序盤のフランスでは、マルーダの左サイドを駆け上がっての攻撃が光った。
 ジダンは今日も精力的な動きで、ドリブル、パス、トラップ、すべてにおいて絶好調で、残り少ないジダンいるピッチでのプレーを満喫した。守備でも常に高い位置でチェックを怠らない姿勢が本当にフランスチームを引っ張っていると感じた。フランスは試合の最後まで事あるごとに互いによく話し合っていた。ジダンテュラムは言い合うかのごとく何か真剣に話していた。98年の、そして私のサッカーの英雄2人。
 バックラインは、先日テレビで見たアート・ディレクター佐藤可士和氏のオフィスの椅子のごとくまっすぐで、「美しい」と見とれるほどだった。乱れは終始ほとんどなかった。このDF陣はブラジル戦に続いて今日も完璧に近い仕事振りだったのではないか。

ジダンのPKが左のネットを揺らす。気合のゴール!

 前半33分、リカルド・カルバーリョの足は確かにアンリに掛かった。得点王の可能性もあるアンリではなく、ジダンがPKのボールをセットする。それはまさに王様の風格だった。誰一人疑う者のない、まったく当然のことに思われた。

ジャッジの妙。ポルトガルは徐々に集中力を欠く

 後半早々から、ポルトガルは、バランスが悪くなり、選手間の距離がばらばらになってしまった。パスをつないで攻撃をしかけるが、ことごとくフランスの選手にカットされてしまう。デコもあまり目立たない。後半17分にはミゲルが負傷交代。走れない悔しさなのか、痛くて仕方ないのか、すっかり情けない顔になってピッチを後にした。
 PKのシーンも含めて、ポルトガルの選手たちは(相変わらず忙しいスコラーリも観ていて楽しいし、試合後のインタビューを見てもすばらしい監督だと思う)、前半からジャッジに対する不満が蓄積されていた。結果だけ見ると、確かにこの試合のジャッジはスペインにやや厳しいように思えたが、解説の反町さんが言うように、「ジャッジもこれまでの両チームの戦いぶりをスカウティングしている」のだろう。これまでの試合でポルトガルの選手たちは、敵のファウルに対して、やや大げさな態度が目立っていた。今までは高い確率でファウルになっていたはずのプレーが、とってもらえない。その微妙な違いに拘泥し過ぎてストレスがたまり、まして1点ビハインドの状況が重なったことで、途中から集中力の切れかけた選手が多くなった。
 しかし、思い通りのプレーがなかなか出来ない苦しい状況にあっても、マニシェ、C.ロナウド、デコなどはクールに集中して、耐え忍びながら、全力のプレーだったと思う。特にC.ロナウドは本当に観ていて楽しい選手だ。

終了間際、ポルトガル怒涛の攻撃も得点ならず

 最後の10分のポルトガルの攻撃は観応えがあった。マニシェの強力なロング、ミドル・シュート。C.ロナウドのドリブルも健在だった。特に最後の数分は本当に怒涛の攻撃だった。コーナーのシーンではGKリカルドもゴール前へ。フィールドプレーヤーのようなプレーを見せた。この試合でも、PKの1点だけに抑え、よくがんばったと思う。ジダンのPKにも完全に反応していたが、シュートの質が高かった。今大会最も印象に残ったGKだ。フィーゴの惜しいヘディングもあったが、結局1-0でフランスが勝利した。
 ともに最後までプレーを続けたジダンフィーゴは、試合終了後再び健闘をたたえて抱き合い、ユニフォームを交換した。エンジのユニフォームはジダンには似合わなかったけど、このシーンにはグッときた。

Les Blues(レ・ブリュ)=フランス代表への「誇り」と「感謝」

 それにしても、フランスは本当に強いチームになってしまった! まさにチーム一丸となっているし、サポーターの応援がまたすごい。プラティニエメ・ジャケ、カランブーなどこれまでの監督、選手はいるは、ユニフォームを着たおじいさんの一群がいるは、スタジアムは8割がブルーに埋まっていた。
 遅ればせながらナンバーの6/23増刊号を読んだ。ジダンが代表復帰を決断したのは、再三スペインに足を運んだ監督のドメネクの説得に強い意志を感じたからだという。「レ・ブリュを助けたいという使命感」「恩返し」の気持ちから復帰を決意したそうだ。93年以来U21代表を率いていたドメネクが最初に召集した選手がジダンだと聞く。
フランスの選手強化システムの申し子とも言われるジダンゆえに、「国」というより、伝統のブルーのジャージへの感謝の気持ちがジダンを動かした。中田ではないが、心のそこから湧き出る「誇り」と「感謝」のもとに、それぞれ自分の役割をわきまえた選手(ただ能力の高い選手を集めればよいということではないと、同じナンバーでクライフも語っている)たちが、有機的な統一感を持ってプレーする、そんなチームが強いのだと思う。フランスチームはまさに今そうした高みに達している。批判され続けたという1トップも、チームの統一感のために考え抜いた末のシステムだったと得心させる迫力があった。ポルトガルもそうだが、パウレタやアンリの1トップは、必ずしも大量点を取るためではなく、1点差をつけて勝つための(あるいは少なくとも負けないための)布陣なのである。
 ジダンに怪我でもない限り、フランスがイタリアに敗れることはないと私は思う。

W杯のすごさ

 代表とクラブ、どちらが強いかという論議があるけれども、私はこの試合のフランスチームとサポーターを観ながら、「No.1同志なら絶対代表が強い」と思った。「何のために戦うか」ということを考えたときに、より深く、より強いモチベーションを生み出すのは、金や名誉のためではなく、誇りや感謝、愛のためだと考えるからだ。そういう、すごさをこの試合に感じたのだった。