イタリアの歓喜、フランスの悲嘆

⑭決勝戦 フランス対イタリア(1-1 PK3-5)

 とうとう終わってしまった。ジダンPK戦でボールを蹴ることも、銀メダルを受け取ることもなかった。終了の笛が鳴ったピッチにも、トロフィーのもとに集まり歓喜に酔いしれるイタリアチームをぼんやり見つめてうなだれるフランス選手の中にも、ジダンの姿はなかった。その時、ジダンはどこで、何を見ていたんだろうか? テュラムは子供のようにわんわんと泣いていた。

PKでもジダンは見せてくれた

 前半7分、左を攻めあがったマルーダペナルティエリアで、イタリアのDF 2人に挟まれ倒されたかに見えた。主審の判定はPK。マテラッツィの足はVTRでは、器用に折りたたまれ、足はかかっていなかったから、事実は誤審だった。ジダンが、ゴール中央にふわっとゆるいボールを蹴った。ブッフォンの動きを見てのシュートだったと思う。バーに当たってゴールラインの内側にバウンドした。このジャッジは誤審だったと思うが、マルーダはこのあと2本PKでもおかしくないような倒され方をしたので、審判も「3つでこの1点で文句はなかろう」と思ったに違いない。

ピルロの正確なCKで同点

 フランスにとってはラッキーだったが、時間が早すぎた。イタリアの攻めが積極的になり、19分ピルロコーナーキックを、そのマテラッツィが頭で合わせてゴールを奪った。ピルロは確かにすばらしい選手だ。中村俊輔と姿がなんとなくダブる。
冷静でクレバー、ボランチとしてのプレーは中田の姿とダブった。

ブッフォンの優勝への強い思いを感じた

 同点になってからは、お互いほんとに固い守備で、あまり得点チャンスはなかった。特にイタリアの下がっての守備は徹底していた。ジダンへのチェックも早くて、ドリブルの暇はなく、ワンタッチでの判断の早さと洞察力に優れるジダンだから、パスでチャンスは作るが決定的なところまではなかなかいかない。
 それにしてもカンナバーロという選手は、本当にすごい。あの小さな身体で、何点かを救ったと思う。ブッフォンも今日は本当に気合が入っていた。ハーフタイムで誰よりも先に出てきて、ゴールマウスに陣取り、ラインに足でマークをつけたりしていた。監督のリッピは「決勝では、強く勝ちたいと思ったほうが勝つ」というような発言をしたようだが、ブッフォンはイタリアの選手の中ではその思いが一番強かったように思う。PK戦でも、完全に読みが外れていたブッフォンだったけど、女神は微笑んだ。
 正直に言えば、同点の間のイタリアの試合振りは、どちらかといえばやはり退屈だった。

延長後半5分の悪夢〜ジダンに何があったのか

 後半も、フランスの方が圧倒的にチャンスが多かった。フランスの4バックも本当に固い。テュラムも何本も決定的なシーンを冷静かつフェアに阻止した。お互い同じ4-4-1-1のシステムだったが、イタリアはトッティがほぼまったく何も出来ないまま後半16分に交代。ジダンビエラが基点となって攻めるフランスに比べ見劣りした。トッティに代わって4試合出場停止明けのデ・ロッシ、41分にはデル・ピエロを投入して早めに仕掛けたリッピだったが得点を奪えず、延長に突入。
 延長後半5分、目を疑いたくなるような事態が起こった。選手はみんなかなり疲れていた。試合もこう着状態が続いていて、何かあったのだと思う。ジダンがプレーと関係のないところで、マテラッツィ(またしても!)の胸に頭突きをして、やや大げさな気はしたが、とにかくマテラッツィは仰向けに倒れた。審判はまったく気づいていなかったが、ブッフォンが抗議し、一発レッドで退場。
 ジダンはそれをしたら退場と当然わかっていたはずだから、瞬間的に感情的になってしまったにせよ、やむをえまい。足もほんとに動かなくはなっていた。アンリだって足をつって、その3分前に交代していたし、ジダンだけではないけど。ただ、精神的にはフランスチームに与えたショックは大きかったろうと想像がつく。でもフランスは10人でよくがんばったと思う。その後もイタリアよりもむしろ積極的な攻めが目立った気がする。

1-1のまま延長30分も終了。PK戦

 PKを唯一はずしたのはセリエAで、イタリアのトーニに次ぐ得点ランク2位だったトレゼゲ。狙いすぎたボールはバーをはじき、ジダンのPKとは反対にゴールラインのわずかに外にバウンドしたのだった。バルテーズは読みは何本か当たっていたが、イタリアのキッカーはみんなサイドネットを揺らすような厳しいコースに強いシュートを放った。最後のグロッソもプレッシャーよりも、「この試合に勝ちたい」という気持ちのほうが勝っていた気がする。魂が入っていた。
 グロッソのPKが決まった瞬間のイタリアの選手たちの歓喜といったらそれはもう大騒ぎだった。腕を組んで冷静にゴールマウスを見つめるキャプテン・カンナバロに後ろから抱きついて見ていたピルロが一番うれしそうだった。4年前のカーンのように、ゴールポストの前に座り込んでひざを抱えるバルテーズと、それは対照的だった。

誰もがジダンに感謝しているだろう

 レッドカードで退場した選手は、表彰式にも参加できないんだろうか? それともジダンは自らその場に参加することをやめてしまったのだろうか? とにかく試合後のピッチには最後までジダンの姿はなかった。
 私はフランスの勝利を確信していたし。ここまできたら優勝トロフィーを天に向けて高く掲げる笑顔のジダンを観たかったけど、あんなにうれしそうにはしゃぐイタリアの選手を見てたら、イタリアの優勝でもよかった気になった。
 ジダンのW杯も選手生活も終わってしまった。なんだかあっけなかった。けれど、不思議とそんなに残念さも残っていない。ジダンは決勝でもすばらしいプレーと集中力、戦う姿を見せてくれたと思う。w杯最後の日までジダンの姿を見れるとは、序盤の戦いを見る限り思っていなかった。すばらしいプレゼントをくれたと思う。レッドカードの行為は責められてしかるべきだろうが、そのくらい強い気持ちだったのだろうし、彼はしっかりと罰を受けた。これがサッカーであり、ワールドカップなんだろう。ジダンが今はもう心穏やかで、選手生活の終わりを迎えるに当たって、今は「出来ることはすべてやったし、なかなかいいW杯だったじゃないか」と思ってくれていることを願うばかりだ。