ラファウ・ブレハッチのコンサートに行きました。

 2005年第15回ショパン・コンクールの優勝者ブレハッチのピアノを聴きに出かけました(11/14 愛知県芸術劇場)。
 オール・ショパン・プログラムで、とりあえず日本の聴衆への挨拶代わりの公演と言ったところなんでしょうか。2003年の浜松国際ピアノコンクールでの最高位受賞が彼のキャリアの転換点となったようで、日本に対して親近感を持ってくれているようです。

とにかく「幻想ポロネーズ」が圧巻でした。

 出だしは「バラード 第3番 Op.47」。なんだかもそもそして歯切れの悪い音響で、「席がステージの正面でなく横、しかも3階席のせいなんだろうか? サントリーホールなら後ろの席でもいい音なのに」などと思いながら聞き始めました。続いて「24の前奏曲」の、なんと前半12曲のみ!というおそろしく中途半端なプログラム。個人的にはこういうのはちょっと勘弁いただきたい気がします。ときどき美しい演奏がありましたが、これといった強烈な印象はありませんでした。
 プログラムを見ると今回の日本公演は、11/6松山から始まり29日仙台まで24日間で12公演もあるんですね。前日13日は横浜だったようです。きっとかなり疲れているんじゃないかとかわいそうな気さえしたのでした。
 ところが、休憩前の最後の演奏となった「幻想ポロネーズ」。これがとてもよかったのです。この演奏がなかったら、私はこのコンサートに来たことを後悔したと思います。逆に言えば、この1曲だけで彼を聴きにきた甲斐があったと思えるほどの演奏でした(だからバラードやプレリュードの演奏に?をつけたくもなりましたが)。

ブレハッチの演奏は男性的でヴィルトゥオ−ゾ然とした雰囲気があります。

 ショパンは、リストなどと比べて女性的で繊細な演奏をするピアニストだったという話を聞きますが、そういう意味ではブレハッチは男性的な演奏をするピアニストだという印象です。どちらかといえば、急がず(若いのに珍しいです)ゆったりとまるで50過ぎのヴィルトゥオーゾのように弾きます。ダイナミクスも大きい。このポロネーズは、、自動的にあふれ出てくるような説得力のある演奏で、すみずみまで気持ちが行き届いていて、最後まで安心して音楽に身をゆだねることができました。ショパン・コンクールの優勝者にふさわしいすばらしい演奏だったと思います。

ポロネーズ以外は、(少なくともその晩の私には)凡庸な印象でした。

 後半はOp.50の「3つのマズルカ」、そしてロ短調の「ピアノ・ソナタ 第3番」です。ブレハッチポーランド人ということでマズルカは特に期待してましたが、やや凡庸な印象でした。3番のソナタは割と好きな曲で、2番でなく3番を弾いてくれたのはうれしかった。立派な演奏だったと思いますが、なんというか、ぎりぎりのところで詰めが甘いような、集中力が足りないような演奏だったように感じました。
 コンクールの2次予選でもソナタは3番を弾いていて、パンフレットによると予選から優勝後のガラコンサートまで、彼の演奏に審査員たちは終始「涙を流して聴き入っていた」とあります。その記述がどのくらい事実なのか知る由もないわけですが、少なくとも当夜の彼の演奏は「幻想ポロネーズ」を除けば、涙が流れて来るような感動は−−少なくとも私には−−ありませんでした。
 それでも、聴衆はなかなか席を離れず、アンコールを3曲(Op.17-2,4 2曲のマズルカと子犬のワルツ)演奏してくれました。私の印象では、この夜の聴衆のセキや物音は標準レベルよりかなり多かった気がしますし、ソナタでは1楽章終了後に長めの拍手が起こるなど、ピアニストの集中に相当マイナスに影響していた気がしました。残念です。個人的にはショパン以外−−すでに録音があるらしいドビュッシーでも弾いてくれないかと期待して拍手を送りましたが、アンコールもすべてショパンで、これも少し残念でした。
 歴代の優勝者や入賞者−−ポリーニアルゲリッチアシュケナージツィメルマンポゴレリチブーニン等々、こうして並べてみるとやはり世界最高のコンクールに間違いないですね−−と比べて、全体としては物足りない印象が否めませんが、まだ21歳です。史上初めてマズルカ賞・ポロネーズ賞・コンチェルト賞を全て受賞したという肩書きも手にしています。幻想ポロネーズが聴けたおかげで、彼の才能の確かさの一端を感じ取ることができた私としては、演奏は堂々としていますが普段は控えめで繊細だという若者の今後に大いに期待したいと思います。
※いずれも私は未聴ですが、「上の2枚はショパン・コンクールのライブ、一番下は「英雄ポロネーズ」のほか、シューマンソナタドビュッシーの「ベルガマスク組曲」などが入っています。
ラファウ・ブレハッチI
ラファウ・ブレハッチII
英雄ポロネーズ~ピアノ・リサイタル