NHKの「サンデースポーツ」〜そしてマイクロソフトカップ、愛知県知事選挙、KID、藤田敦史

決勝さえ中継のないマイクロソフトカップ

 今日はラグビーマイクロソフトカップの決勝があった。新聞のテレビ番組欄をくまなく探したが、その時間帯、地上波はもとより、デジタル放送でも中継の予定はなく、あとから気づいたが深夜の1:10から録画をテレビ朝日系列が放送する。
 視聴率が取れない以上やむをえないのだろうが、それは民放の場合であって、NHKには関係ないはずだ。NHKであってももちろん視聴率を無視はできまいが、BSの放送枠が3本もあり、地上波も2枠。この時間帯に流すべき放送の5番以内に入らないというのはどうも納得がいかない。
 ところが22:00からの「サンデースポーツ」のTOPニュースが、ヒンギス優勝の東レ・パンパシ選手権、楽天・田中生出演のプロ野球ネタを抑えて、そのマイクロソフトカップ決勝だった。これは番組スタッフの熱い思いのあらわれ、もしくはなにものかへの抵抗ででもあるのかとも思った。
 その試合、薫田監督率いる東芝府中がロスタイムの逆転トライで14-13と大逆転。国内最強チームの意地を見せ、社会人一年生監督清宮の率いるサントリーは涙を呑んだ。こんな面白い試合を生中継しないなんて。
 スポーツ中継では、生中継と録画ではその価値に雲泥の差があると私は(というかほとんど誰もが)思う。結果を知った後の試合など観ても−−リアルタイムでなければ、知らなくても、知っているよりはまだましという程度でしかないと、私は思っているが−−楽しさは半減以下である。

サンデースポーツ」関係スタッフの無念について

 ところで、しかも、「サンデースポーツ」は久米島楽天キャンプから生中継だったのだが、始まって15分か20分で「番組の途中ですが・・・」というテロップが入って、激戦化が確認された愛知県知事選(9時過ぎから開票開始)の速報中継に切り替わった。ゲストの大野豊氏が田中のピッチングフォームの問題点をひとしきり解説した直後であった。
 なぜこのタイミングで選挙速報に移らねばならなかったのか。
 この選挙の、日本の政治における「意味」−−その重要性は私も理解しているつもりである。本音を言えばさほど重要とも思っていないが、新聞やニュース解説者や評論家が重要だという意味は理解している。しかし、開票は9時過ぎからということはわかっていたはずである。接戦になるであろうこともおおよそ予想がついていたはずで、であるなら、もしこれを速報で放送したいのなら、最初から「サンデースポーツ」は取りやめるべきだったのではないか?と私は思った。緊急事態でもなんでもない。100歩譲っても、放送開始時点で「開票の状況によっては選挙報道に切り替えます」と堀尾キャスターが説明すべきだったのではないか。一視聴者から見ると、たとえばゲストの田中君や大野氏に対してもかなり失礼な気がするし、堀尾キャスターもまたきっと憤慨しているに違いないと信じる。
 選挙結果がどれほど多くの人にとって大事なのかわからないが、少なくとも予定されていた番組は「サンデースポーツ」だったのであり、その番組をこそ楽しみにしていた、少なからぬ視聴者がいたことは確実なのである。
 「生中継」ということで言えば、終わってしまった知事選挙の結果など100%開票・確定後に結果を聞けば、少なくとも私にはよい。ひょっとしたら投票した愛知県民は一刻も早く結果を知りたいのかもしれないが、この中断・番組変更は愛知ないし東海地区だけだったのだろうか?(見ている限りそうではないように思えた)

 結局「サンデースポーツ」に番組が戻ることもなかった。私は「スタメン」を見てはしばらくしてNHKにチャンネルを戻してみたりしたが、いっこうに選挙速報が終わる気配はなく、11時のニュースとなり、愛知県と北九州市首長選挙結果のみが報道され、ニュースの後も選挙報道を続けるという。そうであるなら、「サンデースポーツは今日は中止です」くらいのアナウンスがあっても良かったのではないか?
 私がもう1つ強く思ったのは「サンデースポーツ」の取材を重ね、準備をしてきたであろう番組スタッフ・関係者の無念の思いである。番組の性格上、その多くは後で報道しても価値がまったくなくなってしまうような旬の情報である。生ものは鮮度が落ちたらつかえない。彼らの仕事、勤務時間、コストはほぼすべてが無駄になった、と私には思えた。

山本"KID"徳郁は復活する/清宮サントリー

 私にとって、そのせいで得をしたことが1つだけあった。それは、チャンネルを何度も変える途中で山本"KID"徳郁を取り上げていた「情熱大陸」という番組に気づいたことである。
 ご存知のように、7年ぶりにアマチュアレスリングに復帰してオリンピックを目指している「神の子」KIDだが、先の全日本選手権2回戦で僅か16秒で相手の投げに腕が巻き込まれ亜脱臼−−KIDの腕はまるでヤンキース・松井の手首のようだった−−の末病院送りとなった。
 KIDは私が言うまでもなく、総合格闘技では、(彼のクラスでは)圧倒的なNO.1である。強さがまさに「神」がかっている。人間とは思えない。人の世界でいえばヒクソン・グレーシー並みだと思う。ヒクソンはもう試合をしない(だろう)。したがって実際に試合をする選手では比ぶもののない存在である。デビュー以来そう思ってみてきた。だから、どこかで「アマ・レスと総合格闘技ではルールが違うから」とは思わないでもなかったが、その結果を知って信じられない思いのほうが大きく勝っていた。
 しかし、この番組を見て、またさらにKIDの「すごさ」のほうを思った。6月の全日本選抜で優勝しないと世界選手権出場は難しくなる。世界選手権に出れないとオリンピックにも出られなくなるのかどうかはよくわからないが、KIDはきっとやるだろう。それは彼にとってもそう簡単なことではないと思うけれど、この男はやる。強さが別格なのである。嘘や言い訳が彼にはない。今回の見方によっては屈辱的な「負け」にも悪びれるところもない。世間やどんな権威に対する気負いもない。彼は自分の弱さも知っているし、ただひたすら自分のやり方で勝ちにいく。そして勝つための努力も惜しまない(ただそれが大して苦しそうでもないところが「神の子」のゆえんに違いない)。そういう男は本当に強い。「圧倒的」「苦しそうでない」という点を別にすれば、今日別府大分マラソンで優勝した藤田敦史のレース振りもまさに同じだった。
 余談だが、サントリーが負けた理由は、今述べたKIDが強いと思う理由の大半が、勝ちを意識した瞬間(まだノーサイドの笛が鳴ったわけでもないのに)できなくなったからだと思う。試合後、薫田は「攻める姿勢がなくなったから必ずチャンスがあると思った」と明確にコメントしていた。しかし、日本選手権の決勝でもう一度両者が対戦したら、今度はわからない。清宮という男がそのことに気づいていないはずがなく、的確に修正してくるに違いないからである。記者会見の清宮は目を真っ赤にしながら「次は見ていてくれ」と言ったのである。