美しさと強さと〜フレンチ・オープン男子決勝 フェデラー vs ナダル(1-3)

 現在の男子テニス界において、総合的な王者は間違いなくフェデラーである。かろうじて彼を破るチャンスがあるとすれば、それはこのローラン・ギャロスの赤土のコートのみである。実際この数年、その舞台以外でロジャーは一度も負けていないはずだ。
 対するナダルも僅か21歳の若さで、今年勝てば全仏三連覇の偉業となる。クレーコートでの強さは比類がない。4連覇はあのボルグしか成し遂げていないのだから。
 そんなわけで、会場のローランギャロスセンターコートは超満員に膨れ上がったのだった。
 この二人を対比するなら、「美しさ」と「強さ」と言っていいと思う。フェデラーのテニスは、まさにオールラウンダー。しかもどのプレーも全て極めてレベルが高い。これほど高度にバランスの取れたプレーヤーはかつていなかったのではないか。動きにはほとんど無駄がない。しかし、この試合では、それが脆く見えてしまうほどに、ナダルの「強さ」は際立っていた。
 彼の集中力は、何物にも動じない。コート・チェンジの儀式もマナーを超越していて自分のルーティンを崩さない。必ずタオルで汗を拭き、自分のサーブでは必ずボールを3個もらい、ひとつをボール・ガールに返す。その目には相手の姿とボールしか見えていない。
 何よりすごいのは、決してあきらめないことだ。0.1%でもチャンスがあれば、彼は決してあきらめない。しかも読み−−野性の勘−−がすごい(らしい)。あのマッツ・ビランデルがそう言っているらしい。これは集中力によってもたらされる部分も大きいのではないかと思う。あのあきらめの悪さは戦う相手の戦意を最後には奪い取ってしまいかねない。そういうやつを以前映像で見たことがある。コモド・ドラゴンである。コモド島に棲むオオトカゲだ。獲物と決めたらどこまでも追い回して相手が疲れ、あきらめたところを容赦なく襲い倒す。
 今のところ、持てる者はやはりフェデラーのほうなのであり、そういう意味ではハングリー精神でもナダルにより多くがあるだろう。彼はこの全仏の舞台に全てを賭けているに違いない。
 こう書いてきたが勘違いしないでいただきたいのは、ナダルが美しくなくて、フェデラーに強さがないということでは決してないということだ。ナダルの鍛え上げられた筋肉は、そのしなやかさゆえに美しいと思われるし、彼の強靭なプレーを支えているのは、おそらくはその人並みはずれた筋力に違いない。
 フェデラーは全てのプレーをあまりに簡単にやってしまうというのは専門家がしばしば指摘するところであり、それゆえに観るものに与えるショックは小さくなってしまうが実はファーストサーブは軽く200kmを超えているし、ショットのスピードや正確性も平均をはるかに上回る。
 それにしてもサーフェスの違いでこれほど結果が変わってしまうというのは、テニスの奥深さともいえるし、特に男子テニスでは(女子はこれほど結果に違いが出ない)実力が拮抗しているという証でもある。

 今年はフェデラーが勝つと思っていたが、昨年と同じ3-1でナダルが3連覇を果たした。3セット目以降は特に昨年以上にナダルの強さばかりが目だった気がする。フレンチ・オープン以外でも今後二人の差が縮まるのか、開くのか、男子テニス界の行方は、今のところその1点しか興味が注ぎえない状況だ。ほかの選手の奮起と新たなスターの出現にも期待したいところだ。