為末、ファイト。

 今日から世界陸上。為末がまさかの一次予選落ちをしてしまった。各レースの4着以内という準決勝進出圏外の5位。さらに各組5位以下の選手全体の4位以内という準決勝進出ラインにも0.01秒差の5位だった。

その心意気がすごい。

 この男、何と言っても室伏、末続と並ぶ日本陸上界のエースであり、誰もが知っている通り世界陸上でも2度の銅メダルに輝く実績の持ち主であもある。何より陸上を愛している(こうして書くと少々気持ち悪いが)。「陸上は楽しいよ。近くで見たら、そやあすごい迫力なんだから」と、クイズ・ミリオネア全問正解でもらった1000万を全部投じて、丸の内のビル街で陸上パフォーマンスをやってしまった男である。その番組を見たが、会場となった通りに群がる人の山を見て、その中にいる彼は実に晴れ晴れとしてそれはうれしそうだった。
 「いやあ感動しましたね。正直ガラガラというのも覚悟してたんですよ。(1000万を投じて1日で使ってしまったことは)まったく後悔してないです。世界陸上にもたくさんのお客さんがきてほしい」と熱く語っていた。
 つまり、それは、久しぶりに日本で開催される世界陸上を前に、自らの金で開催した「前夜祭」であり「壮行会」だった。人のふところ具合をどうこう言うつもりはないが、(アメリカやヨーロッパならともかく)日本のプロの陸上選手がそう儲かっているとは到底考えにくい。いくら「あぶくぜに」といってって、1000万は大金にちがいない。その金で練習環境を整えるとか、移動や宿泊のグレードをアップするとか、要するに「自分のためだけに」使うこともできた−−というよりそれが自然だろう。それなのに、たった一日のイベントに全てをつぎ込み、「こんな有効なお金の使い方はないと思う」とあっさり言い切った。その心意気がすごい。
 やったこと自体は、前代未聞で、陸上界にとってその意義や効果は小さくなかったと私も思うがそれを為末個人が私費を投じて(もちろん多くのスポンサーの協力があったとはいえ)やる必要は本来ない。他人を出し抜くことや利益・効率ばかりが優先される風潮が社会や企業に蔓延する今の日本で、こういう話は滅多にない。

為末がどんな思いか気になってます。今日はきっと眠れないだろうな。

 その為末が予選敗退したのだ。そういう為末だから誰よりも準備怠らず「やれる」ことはすべてやってこの大会に臨んだであろうことは疑いがない。ただ一方で、ただの一陸上選手ならする必要のないことまでしていたであろうことも確かだ。それはもちろん彼自身が選んだことなので誰のせいでもないが、そのことが今回の結果に影響していなかったかということが気になる。「やれなかったこと」もやれたかもしれないからだ。
 ただ、ポジティブに考えれば、陸上の花形大会は間違いなく圧倒的にオリンピックである。正確にはわからないが、まだオリンピック代表にはなれる−−ひょっとしたら既に内定してるのかな?−−んだろうから、今回の結果を教訓にして、北京に臨んでもらいたい。もう陸上界全体のことはいい。それはまたあとでもできる。
 それにしてもこんなレースのあと為末はよくインタビューに応じてくれたと思う。プロとして視聴者や観客に対する責任感などからということなのかもしれないが、彼の強い思いを知っていれば−−そしてほとんどのファンは知っているはずだ−−そのインタビューをキャンセルしてもまったく責めたりはしないだろう。そのくらい「きつい」と思われた。にもかかわらず女性のインタビュアーは次々質問を繰りだす。TVを見ながら「もういいだろう」と私は思わずつぶやいた。
 為末ファン(およびあらゆる陸上関係者)は今こそ全力を注いで彼を応援すべきだと思う。今応援しないでいつ応援するんだ、そんな気持ちである。
 為末大ガンバレ。