ベケットとフランコーナ監督の松坂へのコメントには泣きそうになった。ア・リーグ・チャンピオンシップ・シリーズ第5戦 BOS vs CLE(7-1)

 1勝3敗と後のなくなったボストン。第5戦はベケットの登板だから、絶対勝つと思っていたが、期待を裏切らないすごい投球で圧勝した。といっても中盤まで一進一退の攻防。相手も19勝のC.C.サバシア。160km前後の直球を投げ込んでくる。このシリーズ初戦では同じベケットとの投げあいの中、打ち込まれているから意地もあろう。
 ボストンは上位打線が良かった。ペドロイア、ユーキリス、オルティース、ラミレス。そしてローウェル。恐るべき打線だ。とりわけ、愛すべきラミレスはこのシリーズ、サバシアから8連続出塁と手が付けられない。
 しかしまあなんといってもこの試合、いやこのシリーズ、いやいやこのシーズン通してMVPはジョシュ・ベケットである。今日は9回のマウンドを次回登板−−フランコーナはワールドシリーズを確かに見据えている−−に備え6点差もあるのに100球を超えたこともあり抑えのパペルボンに譲った。普通なら2試合連続完投だった。これでこのシリーズ2勝0敗。ERA(防御率)1.93.
 レギュラーシーズンは両リーグただ一人の20勝。たったの7敗。ERAは3.27。ちなみに松坂は15勝12敗、ERAは4.40。成績からいうとかなり開きがある。ただ、投球回数と三振は松坂がわずかに上回っていて、ローテーションを守ってこの投球回数は松坂とて立派なものだ。ボストンのメディアが騒ぐのは、「1億ドルの男」だからで、これはまあやむをえないけれど。

ジョシュ・ベケットの安定感は比類がない

 それにしてもこのベケットというピッチャーは本当にすごい。まちがいなくサイ・ヤング賞をもらうだろう。1980年5月15日生まれのまだ27歳。松坂とは同い年だ(松坂は1980年9月13日生まれ)。メジャー7年目。ストレートは155kmオーバー。松坂より5km前後速い。しかも背が高く手足が長い。6フィート5インチ(195cm)。投げ方は非常にやわらかく軽々と投げている感じがあり、ほとんど同じモーションから腕を振り切って投げる変化球にも威力がある。しかもコントロールは抜群で、ほとんど高めにはいかない。
 そのうえ彼には冷静でタフな精神力が備わっている。この試合でもインディアンスのロフトンと危うく大乱闘になるようなシーンがあり、両軍のほとんどの選手がマウンドに集まった。理由は良くわからないがロフトンと言い争いになったことがきっかけで、普通のピッチャーならそのあとの投球で冷静さを失いかねない。しかし、まったく動じるところがなく、ひとしきりロフトンに怒鳴ったあとは何もなかったかのように投球を続けコントロールにもまったく乱れはなかった。本当は熱くなるタイプのように思った。しかし、少なくともマウンドでは自分で気持ちをコントロールできる。すくなくとも今年に限って言えば、他のピッチャーを完全に圧倒していたと思う。

ボストンが大好きになった

 松坂が打たれた翌日の朝日新聞の記事を読んで、ほとんど涙が出そうになった。メディアにたたかれ、2試合連続5回降板の松坂は次回の先発を外れるのではないかという憶測が日本でもささやかれていた矢先だった。正直私も可能性0ではないと思ったが、松坂をはずせば代わりがいないから、その可能性は低いとは思っていた。松坂が投げた翌日もウェイクフィールドが打たれ王手をかけられたわけで、明日第6戦先発予定のシリングを含めて、とにかくベケット以外は先発で責任投球回数5回を投げ切れたピッチャーはおらず、ブルペンを含めても役割どおりの仕事をているのはベケット、岡島、ティムリン、パペルボンの4人だけしかいない。
 しかし、だ。「松坂は勝たないといけない、という責任を背負いすぎていた。あれほど強い闘争心を持っている投手は見たことがない。次はよくなると思う」と答え、今後も先発で起用し続けることを即座に明言した。フランコーナの言葉は本当に「この人のためにがんばろう」と松坂に思わせたに違いない。信頼を口にする判断がスピーディで明確であるということは何と美しく感動的であることか。こういう関係性はどの世界でも、どの仕事でも決定的な効果をもたらすと思う。
 さらにベケットの言葉はほんとに涙が出る。「違う世界に適合するのは非常に難しい。松坂は、ここまで努力してきたのは分かっているし、みんな彼を応援している」と第5戦登板前に語ったそうだ。また「必ずお前まで回すから」と言ってくれたと松坂が語ってもいる。こういう話を聞くにつけ、またベンチの様子を見るにつけ、まったくボストンは素敵なチームだ。ロッカールームの雰囲気も、他の球団にはない自由奔放でリラックスしていると聞く。私はヤンキースも嫌いではないが、ボストンというチームが大好きになった。これも全て松坂が入って試合を見る機会が増えたおかげなので、松坂に感謝したいくらいだ。しかも球場がまたいい。フェンウェイパークグリーンモンスターの上に作られた席でいつか試合を見たいものだ。メジャー1チケットの取れない人気の球場で、ボストンファンはフェンウェイでの観戦をあきらめて敵地の試合を観に行くとも聞く。だから、果たしてそんな日がやってくるかどうかはなはだギモンではあるけれど。
 シリング−−というより打線にかっとばしてもらって−−に勝ってもらって、第7戦で松坂に意地を見せてもらいたい。本来の力が出せれば、必ず勝てる。