星野JAPAN敗れる。準決勝 日本対韓国(2-6)。スポーツの国際舞台での「美しさ」と「力」について。オリンピックは「結果がすべて」ではない。

岩瀬に踏ん張ってほしかったなあ。残念です。

 2-2の8回、藤川の後を受けて岩瀬が登板。ここまでツキがなかった岩瀬だが、そんなに打たれるわけがないのである。意外と思った人が多いのかもしれないが、私は、星野なら必ず岩瀬をもう一度この場面で使うと思っていた。なぜなら岩瀬というピッチャーの力を信じているから。星野監督には監督として必要な度量の大きさがある。「お前と心中するから、思いっきりやれ」そういうことだ。もちろん勝負だからうまくいかないこともあるけど、私はこの起用は間違っていないと思う。だから岩瀬にも結果で応えてほしかったなあ。
 打たれたあと、さらにヒットが出た時、アナウンサーは「バックネット裏から見ててもボールが来てないように見えますもんねえ」などと適当なことを言っていた。本当かい?と私は思った。結果が悪いと内容まで悪いようにオートマティックに言葉を使う。日本のメディアの悪い癖だ。
 李承ヨプはここまで全く当たっていなかった。しかし腐っても李承ヨプである。岩瀬はせっかくカウントを追い込んだのにストライク近くにボールが行ってしまった。とはいっても真中だが低めの切れのあるストレート。これまでの李承ヨプなら三振でも不思議でない球だった。しかし、右中間に持っていかれた。

日本のピッチャーはもっと自分の力を信じて思い切り投げてほしかった。

 この試合を見てて、特に投手について強く思ったことが2つある。1つは、日本の投手陣の力からいって、本来の力を出し切れば、そんなにポンポン打たれるはずがないと思うのである。この投手陣ならMLBでも相当やれると思う。にもかかわらず、相手を警戒しすぎてコースを狙いすぎ、そのために本来のキレやノビが抑制されてしまっているのではないか。岩瀬もそうだし藤川もそうだ。普通の調子のこの二人の球をバカスカ打てるようなら、そんなチームはワールド・チャンピオン級といっていいい。「真中でもいいからもっと思い切り投げろ!」と何度TVに叫んだことか。

国際試合のストライクゾーンは狭い気がする。日本のような繊細な野球には不利。

 もうひとつ。コントロールで勝負するピッチャーは国際試合では不利かもしれないと思った。岩瀬がまさにそうだ。国際審判のボールの判定は人によって癖がある上に、なかなか安定しないような審判も少なくない。コントロールが良くてきわどいコースで勝負するようなピッチャーは、しばしば判定に泣かされることになる。特に勝負どころで「きまった!」と思ったボールを「ボール」と判定されたりすると、もう一つ甘く投げざるを得ない。結果打ちごろになったりする。国際試合の判定は、「インコースに厳しい」とか「アウトコースに甘い」とかいうのではなく、どちらかというと「きわどいコースはボールと判定する」そんな感じがした。これは明らかにボールの勢いで勝負するパワーのあるチームに有利である。

柔道、体操、シンクロも同じだ。繊細な美しさよりパワフルな力技が有利となる国際競技。

 柔道も同じだが、そんなこと言ってても始まらないので、国際試合でも戦っていくなら、パワーを身につけるしかない。体操でも同じようなことを言っていたなあ。つまり「力技ばかりが重視されるようになり日本の美しい体操が評価されないようになった」。ルール変更でミスをしても大技をたくさん決めたほうが高得点につながる。だから日本の内村はあん馬で2度落下したにもかかわらず個人総合で銀メダルを獲得したわけだが。
 シンクロのデュエットでメダルを逃したあと、中国の井村コーチはおおよそこんな趣旨の話をしていた。「最近のシンクロは力技ばかりが重視されて、本来のシンクロの美しさが評価されなくなってきたのではないか」。日本人の美意識は、少なくともスポーツの世界では、非常に厳しい局面にあるのかもしれない。

結果が全て、ではない。しかし力を発揮すれば結果はついてくるともいえる。3位決定戦は感動と勇気をもたらす試合を。

 星野JAPANとしては厳しい結果になったが、3位決定戦で勝ってぜひメダルを持ち帰ってもらいたい。気持ちとしては金メダル以外3位も4位も同じなのかもしれないが、私は全く意味が違うと思う。
 ベスト4に残ったとはいえ日本は予選で4勝3敗の最下位だったのである。もちろんまずベスト4に残ればいい、という戦いが求められ、結果を出したともいえるが、負けにいった試合(基本的にそんな勝負はどこにだってないだろう)がない中で3敗した。日本はこの4チームの中で、予選では一番弱かったのだ。今日勝つチャンスは大いにあると思って応援したし、実際先行して、中押しで1,2点取っていたら勝っていたと思う。しかし結果は負け。韓国は思っていた以上に勝負強かった。バッティングも粘りがあった。日本はどうも淡泊な戦いぶりに見えてしまう。
 G.G.佐藤の落球は、本当のところ良く追いついたのかもしれず、G.G.佐藤の普通の守備ではグラブに当たりもしなかったのかもしれない。しかし、だ。あの場面でグラブに当てたからには捕らないといけない、捕らないと勝てない、そういうことなんだと思う。例に挙げただけで私は個別のプレーについてダメとか言っているわけではない。G.G.佐藤はあの体の大きさだし、シーズン中のプレーは見たことがないのでわからないが、おそらくあまり守備がうまい選手というわけではないだろう。だったらバッティングで貢献するための工夫や気迫をもっともっと見せてほしかった。
 最下位の日本が次の試合に勝つこともどうやらかなり大変なことだと思う。ピッチャーはともかく、キューバアメリカ相手だとバッターのほうはかなり厳しい気がする。
 泣いても笑っても最後の試合になる。自分たちの野球の姿というものがどんな形をしているのか、私たちに見せてもらいたい。本来のプレーが9回までできたら、きっと私たちは感動するだろう。たとえ負けたとしても「よくやった!」と祝福するだろう。そんな試合をすれば間違いなく結果もついてくるだろう。
 なでしこJAPANや卓球、女子の体操団体、それから1次予選で敗れたけど陸上の末續や為末。彼らの努力には結果がどうでも何も言えない。予選落ちしたあと末續は言った。「できることはすべてやったんですけど、だめでした」。本当にすべてやったんだと、見てたわけではないが私は思った。彼らに対して、ただ脱帽し「お疲れさま、よくやったよ」という以外にどんな言葉をかけられるだろうか。
 野球も、少なくともこの大会では結果的に挑戦者だったことを肝に銘じて、予選以上の結果を目指してきっちり結果を出してもらいたい。ダルビッシュが先発するのじゃないかと思うが、思いっきり最後の試合を楽しんでもらいたい。チャンスがあったら岩瀬にもきっちり抑えてほしい。新井も思い切ったスイングで新井らしいでかいホームランをかっ飛ばしてもらいたい。G.G.佐藤も涙を拭いて、バットであなたの野球を見せてもらいたい。
 実力があっても必ず勝てるわけではない。「だから面白い」と2大会連続金メダルの柔道・内柴も言っていた。MLBが選手を派遣しない理由もそのあたりにあるのではないか。金メダルが取れなくても「あれはメジャーの選手がでてないから」といえばいい。しかし日本はオ−ルスターである。縮こまった野球でプライドを粉砕されたまま帰ってきてもらいたくない。力のある人は、力を発揮しなくてはならないと思うのだ。そのためには逆に謙虚になる必要があるのではないか。
 野球にとっては当面最後のオリンピックになる。自分を信じて、自分たちの野球を世界中にアピールしてもらいたい。