錦織圭の強さは本物かもしれない。US OPEN 開幕。1回戦、錦織圭対ファン・モナコ(6-2,6-2,5-7,6-2)

 WOWOW観戦ではあるけれど、初めてちゃんと錦織の試合を見た。いやあ、いいですね。見ていて楽しい。意外性のあるショット、ストロークも勝負どころではひじょうに安定していて自分の形を持っている。この試合では相手のバックサイドに決めるフォアハンドのバッククロスが精度といい、スピードといい、角度といい素晴らしかった。ことごとくラインぎりぎりに決まっていた。
 相手のモナコは第29シード、昨年の全米はベスト16。ただし今年は肺炎になったとかで4週間ほど練習のできない期間があり、北京オリンピックが復帰戦だったとかで、オリンピックも1回戦で敗れている。おそらくまだ本調子ではないのだろう。甘いコースが多かったし、ライン際のショットはことごとく外れ、感情をあらわにしていた。特に最初の2セットはペースをつかむ前に、錦織にしてやられた感があり、第3セットは放送されなかったのでどうだったのかわからないが、第4セットあたりでやっとシード選手の片りんを見せたが、もはや遅かった。

勝負を分けた第4セットの第6,7ゲーム

 その第4セットがまさにこの試合のポイントだった。3-2と1ブレイクの錦織。第6ゲーム、40-0の時に太腿が痙攣し普通に歩くことも難しい状態になった。3分間のメディカルタイムアウトでマッサージを受け、再開。このゲームをなんとかキープし、なんとそのあとの相手のサービスをブレイクした。これで5-2.この2ゲームをとったのが勝因だった。その後も何度も両足のストレッチを繰り返していた錦織。モナコも「よーし、もらった」と油断した可能性もあるが、少なくともプレー中はけいれんの影響は感じられなかった。
 試合後、フローラン・ダパティのインタビューに、「痙攣したので、試合を早く決めようと、積極的に攻めたのが結果的によかった」と語っていた。ひょっとしたら第6、7ゲームのどちらか1ゲームでも落としていたら負けていたかもしれない。ツキもあった。

錦織の良いところ・悪いところ

 まずショットが多彩で、前後、左右に打ち分け、相手を走らせるのが錦織のプレースタイルなんだろう。相手がトップ10クラスだと今日のような攻めができるかどうかわからないが、この日は錦織自身がまるでトップ10の選手のように、オンラインのショットを何度も決めた。明らかにゲームをコントロールしていたのは錦織で、モナコは格下の選手のように見えた。実際は世界ランク32位の選手である。
 男子の場合100位も200位も30位も、テニスのテクニカルな部分では大差がないと言われる。あとは気持ちやタクティクスの問題なのだろう。そのくらい食うか食われるかの勝負なのである。アスレティクスとしての世界レベルのプロスポーツとしてはテニスが唯一の個人で戦うスポーツである。チームで戦うスポーツにはない、特に精神面での厳しさがあるに違いない。
 それから基本的なことだが、錦織は足が速い。時折見せるネットプレーなど、あっという間にネットに詰める。さらにセンスがいいと思う。あまり無駄なプレーがない。松岡修造と比べると、錦織には松岡みたいな「硬さ」が感じられない。すべての動きが自然な感じがする。
 錦織のサーブはファーストが約200km/h、セカンドが160〜170km。サーブはまるで練習の時みたいにテンポよく何がに打っていく。そのスタイルはとてもいいと思う。相手に隙を与えない。見ていても小気味よい。
 逆に相手がポイントを決めて、すぐにもサーブをしたがっているときに、ゆっくりとポジションに戻るシーンもあった。そういう戦略も名門・IMGボロテリー・テニス・アカデミーでしっかり身につけたにちがいない。
 ただし、この日は後半特にファースト・サーブがほとんど入らなかった。結局この試合のファーストの確率は52%。モナコは70%を超えていた。普通ならもっと苦戦するところだ。自らもサーブのことには触れていたが、サーブは練習すればどんどん速く正確になると思う。ファーストが決まった時にポイントを取る確率は80%を超えていたはずだ。サーブが改善されれば、さらに強くなることは間違いない。
 それから、意外とあっさりしたミスが多かった。ダブル・フォルトも10回くらいあったんじゃないだろうか。この辺は彼の持ち味かもしれないが、当然改善の余地はあるだろう。
 もうひとつ、この日も痙攣を起こしたけれど、ツァーを転戦していくうえでは、筋肉のスタミナが足りないのかもしれない。ウィンブルドンも「腹筋の肉離れ」というあまり聞かない故障で棄権した。もしかしたら、そのせいでほかの筋肉に負担がいって、体全体のバランスがわるくなり、故障がちな状態なのかもしれないが。

US OPEN 錦織の今後の対戦予定

 次戦はクロアチアのカラヌーシッチという選手とあたるようだ。錦織のいるグループで一番強いのは第4シード、スペインのフェレールだが、そのカラヌーシッチに勝つと3回戦で当たり、勝てばベスト16。もし勝ち上がるようなことになると、次に対戦するグループには第16,17シードの選手(ジル・シモン、ファン・マルティン・デル・ポトロ。私は全く知らない選手です)がいる。ベスト4に残るには第6シード、イギリスのアンディ・マレーがいる。万が一、ここまで来るようなことになると、これはもう日本中、いや世界中大騒ぎになるだろうが、さらに勝ったとすると、準決勝でナダルとおそらくはあたることになるだろう。
 故障の状態が心配だが、できればあと1つ勝ってフェレールと対戦してほしいなあ。