オシムさん、お元気で。

 TV東京のメガスポという番組で「しゃべる」オシムを久しぶりに見て、「そういえば今年いっぱいで日本サッカー協会との契約を終わりにしてオーストリア(だったと思うけど、スイスのどこかだったかもしれない)で静かに暮らすことにしたという報道があったなあ」と、思い出した。
 このスポーツ・ニュース番組では前園が岡田監督と前監督のオシムにワールドカップ アジア最終予選に臨む代表がどのようにレベルアップし世界と伍していくことができるか、と聞くという企画でインタビューしていたのだった(実際はオシムに聞いているのは前園ではない)。

岡田マジック

 岡田監督のことはとりあえず置いておく。この番組での発言も自信にあふれたものだったし、やるべきテーマは明確だった。何より、オシムからこのチームを引き継いだのは岡田さんで、このところの代表戦は素晴らしい内容になりつつある。まだ(いったいいつになるかわからない)詳細は不明だが、そこには岡田監督のマジックといってもいいような何かが働いていることは確かだと思う。メソッドがあり、目標が明確(W杯でベスト4)であっても、それだけでは結果はついてこない。あまり強引なタイプでもなければ、今回の監督就任は(就任したからには全力投球であることは疑わないが)、岡田さんにとっても青天の霹靂だったろうことを考えれば、このチームの一体感をマジックと呼ぶことは許されるに違いない。

オシムがいなかったら今の代表はありえない

 インタビューのオシムは少し痩せて、少し年を取ったような印象だった。少し前の新聞記事で「今生きていてこうしてしゃべっていることが奇跡だという医者もいます」と語っていた。脳溢血かか回復したのだから医者の言葉には何の不思議もない。「また代表の監督に戻ってきてくれ」とは、どうやったって言えない。言えないけど、オシムが日本を去ってしまうのはやはりさびしい。知り合いでもない外国人に対してこんな気持ちになったことはない。オシムは愛すべき人物だった。オシムは日本サッカーに決定的な貢献をしてくれたと私は思っている。
 この日の話を聞いて何が貴重だったか改めてわかった。
 本当の意味で世界トップレベルのサッカーを知っている初めての指導者がオシムなのだ。オシムはそのレベルを明確にイメージできている。絶対的な基準を持っている。オシムは世界のトップである欧州サッカーのトップレベルの戦術、選手の能力、チームの連携がわかっているのであり、それに比べて日本の選手や戦術がどのくらい足りないのかを具体的に語ることのできる監督なのだ。
 今の日本代表の目指すべきコンセプトの大半はオシムが掲げたものにほかならない。中村俊輔もそう言っていた。
 オシムのような人が日本に来てくれて、日本という国や日本人や日本のサッカーを、結果的に愛してくれて、今少なからず後ろ髪をひかれつつオーストリアに帰ろうとしている(もう帰っちゃったのかもしれない)。ボスニア戦争に巻き込まれてしまった運命と同じように、日本はオシムに平和で安全な生活を提供できたからこそ、この幸運がもたらされた。その点はしっかり胸に刻んでおくべきだろう。
 心からオシムに感謝したい。オシムが来てくれて本当に楽しかったです。どうもありがとう。体に気をつけて、どうかお元気で。