全豪オープン 男子シングルス決勝。フェデラー対ナダル(5-7、6-3、6-7、6-3、2-6)。ナダルがグランドスラム3冠を達成。

天才対超人

 フェデラーは今日のプレーを見ていても、サーブ、ボレー、バックハンド、回り込んでのフォア、とにかく何をやっても無駄がなく、簡単そうに−−つまり誰よりも美しいプレーをする。
 まさしく天才的なプレーセンス。天才、史上最高のオールラウンドプレーヤーだと思う。
 しかし、このところナダルにだけは、文字通り歯が立たない。ナダルの勝負どころで見せるショットは神がかっている。人間の足ではここまで、というところで信じられないことだがもう1歩もしくは半歩前に出ることができる。そこではクロスが精いっぱいのところで腕が超人的な動きでもう90度動きストレートに打つ。
 誰も返せない。たとえ天才でも。天才とは、つまるところ人間だから、神には歯が立たない。

第4セットが綾だった。

 セットカウント2-1とリードした第4セット、ナダルの調子が急におかしくなった。その前にトレーナーを2度呼んで右の太ももをマッサージしてもらっていたから、そのふとももの状態の成果と思われたが、3度トレーナーを呼ぶことはなかった。
 何せ準決勝のベルダスコ戦で史上最長5時間14分を戦い抜き、中1日で決勝に臨んでいる。フェデラーロディックにストレートで勝ち、中2日。記者会見ではナダル自身が「フィジカルの回復に全力を尽くす」というほどだったのだ。ベルダスコノアの強力なショットを返し続けての5時間超は並大抵の消耗度ではなかったろう。
 ナダルはこのセットを早々にあきらめた−−そんな気がする。全米で錦織が世界ランク4位のフェレールを破ったときがまさに同じ状況だった。錦織は第4セットをあきらめて、第5セットに勝負をかける作戦に出たと語っていた。
 思うところそれはたとえば10kmを走るのに途中きつくなっても、最後の1kmだと思ったらなんとか辛抱して全力を出し切れるランナーに似ている。「故障をしているなら早く試合を終わらせたいと思うかもしれないけど」と錦織は言っていた。が、彼はリードを許したところで、第5セットに賭けることを選択し、見事に勝利した。「本当に強い選手なら、そんなあきらめ方をする必要はなかったかもしれない。まだまだ自分はメンタルが弱いんだと思います」とも錦織は言った。ナダルはどうだったんだろうか?

今日のフェデラーナダルと互角だったのだが・・・

 ところが6-3と比較的あっさり第4セットをとったはずのロジャーがおかしい。イージーミスを連発して簡単にブレークを許す。今日のフェデラーはここ何試合かと違ってナダルにまったく歯が立たないという感じではなかった。それがスタミナを消耗し、故障さえ疑われたナダルのコンディションのせいだったのかどうか。とにかく第5セット、第8ゲーム、自らのサービスゲームを奪われゲームセット。このセットのアンフォースドエラーの数はちょっと信じられないくらい多かった。この試合のフェデラーはウィナーも多いがミスも多いという攻めの姿勢を終始貫いての闘いだったが、第5セットも本来のプレーぶりには見えないナダルを相手に急激にパフォーマンスが落ちたのはなぜなんだろう?

次の大会も楽しみです。

 ナダルが全豪を制したことで、昨年のウィンブルドンに続き、ハードコートでも世界トップであることを証明した。次は5月の全仏だが、赤土が得意のナダルが4連覇する可能性が最も高いが−−いや全仏はフェデラーも歯が立たないか。それにしても万全な状態ならこの2人を脅かす存在は見当たらない。
 大化けするとしたら、ひょっとしたらそれは錦織圭かも知れない。彼のトレーナーによれば、錦織はプレーのレベルが急速に進化しすぎてフィジカルがそのプレーに耐えられないがために故障が多いのだという。そんな話これまで聞いたことがない。全豪は残念な結果に終わったが、相手のメッツァーだって本当にいい選手だった。世界ランク32位、第31シードとは到底思えなかった。直前にひじを痛めて満足な練習ができなかった錦織が簡単に勝てる相手ではなかった。
 とにかく故障をしっかり治してくれさえすれば、と期待は膨らむばかりである。