「結婚できない男」〜テレビドラマ考

昔、テレビドラマは面白くも、気概と誇りにあふれていた

 最近とんとテレビドラマというものを見なくなりました。昔は映画などにはあまり強い興味がなく、テレビドラマばかり見ていたのですが。
 中学生、高校生の頃、一番のめり込んだのは、まず鎌田敏夫脚本、中村雅俊主演の「俺たちの旅」でした。です。これはもう面白くて、おかしくて、悲しくて、「何で好きなことだけやってちゃいけないんだ?」「俺は俺らしくしか生きられないんだ」ってなせりふに共感し、自分はどう生きていこうかというようなことを結構まじめに考えました。
 それから山田太一脚本のドラマにはほとんど圧倒されつくしでした。最初の衝撃は「岸辺のアルバム」です。多摩川の濁流に丸ごと押し流されていく家。繰り返し映る通勤電車。何事もなく繰り返されているように見える日常に、実は普通にどこにでも人間の弱さ、醜さから生まれ出る毒が潜んでいるのだと−−それは実は誰でも知っているけれども隠していることです−−白日の下にさらして見せたに過ぎません。「なんだ誰もみんなやっぱりそうなんじゃない」と確認してほっとしたり、弱さ、醜さを認めるところからしか本当の信頼や理解は生まれないということに思いいたったりしたのでした。聖人君子などというものは、「マザー・テレサになったあとの」マザー・テレサとか、「マハトマ」と呼ばれるようになってからのガンジーなど、人類史上ごくわずかな人の、一時期にしかすぎません。
 「北の国から」と倉本聰、そして「時間ですよ」「寺内貫太郎一家」「向田邦子シリーズ」の久世光彦もあげないわけにはいきません。そうすると、松田優作主演の「探偵物語」も・・・きりがないですね。

結婚できない男」の阿部寛はいい。

 そんなわけで、このところあまりテレビドラマは見ないんですが、今欠かさず見ているドラマが1つあります。
 それは火曜日10時からフジテレビ系でやってる「結婚できない男」です。
 ちなみに、その前は、NHK大河ドラマ新撰組!」でしたね。これはもう久しぶりに面白くて面白くて、何回目からかは何があっても見逃すまいとしてました(DVDがでているのでほしくて仕方がないのですが、ちょっと高すぎますね。再放送を熱望します)。映画も確実にヒットさせますし、歌舞伎の新作をシアター・コクーンでやったりと、面白い芝居を書かせたら、三谷幸喜は今や右に出るものはいないと思います。
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 また話がそれましたが、「結婚できない男」はそこまで重要なドラマではありません。見れなければ見れなくてもかまわないんだけれども、なんだか結局毎回見てる。そういう類のドラマです。
 主演は阿部寛、アベちゃんです。
 「トリック」も深夜時々見てました。仲間由紀絵のファンなので見たというのがもともとの理由ですが、アベちゃんの演技にも目を留めてましたね。ご存知の通りもともとモデルで、イケメンのハシリみたいな彼ですが、今では本当にいい俳優になったと思います。風間トオルもそうですが、カッコイイだけではすぐに飽きられてしまうことに早くから気づいていて、力を蓄えようと努力し、きちんとプロの俳優になった。尊敬します。
 そうはいっても「結婚できない男」も、実を言えば夏川結衣のファンで−−豊悦と共演した「青い鳥」(というタイトルも覚えてませんでしたが)の演技くらいしか印象はないんですが−−、しかもNHK朝のテレビ小説「ちゅらさん」以来のファンである国仲涼子も出てるとあって、見始めたのですが、圧倒的に阿部寛がいいです。
 妙に物知りで、きれい好き。仕事はきちんとこなすが、人付き合いには公私を線引きして、自分の時間を大事に過ごす。隅田川の花火も取っておきの場所で、他人には教えもせず1人きりでワインを飲み「玉屋!」と叫んで、それでも楽しめる。夜はたいていクラシックをフルボリュームで聴き、陶酔に浸る。食事にはあまり頓着しない。恋人もいない。休みの日には、1人で、はとバスに乗ってみたりする。
 そんな「結婚できない男」を演じています。まあ、面白おかしいだけのドラマで、他愛もありませんが、阿部寛の演技を見てるだけで楽しいです。

なぜテレビドラマを見なくなったのか?

 なぜテレビドラマを見る機会がすっかり減ったのかと考えてみると、いくつか理由は思い浮かびます。
 まず、会社勤めの身になると、連続ドラマを続けて観ることはなかなか難しい、ということはあります。年齢的にもほかにもやるべきことが増える。 また、今時の子供や若者にとっても、彼らはまるで社会人のようにやるべきことが多いし、遊びや娯楽の選択肢も多すぎます。連ドラは、豊かで、めまぐるしく日常を過ごす彼らのスタイルにも合わないのかもしれません。
 ただ、面白ければ録画も可能なので、これが一番の理由ではないでしょう。スポーツと違ってリアルタイムじゃないと興味が半減するということもないわけですから。
 テレビドラマがつまらなくなった。少なくとも面白いドラマが少なくなった。単純だけど、やはりこれが一番の理由なのでしょう。きちんと作られたものもあるのですが、つまらないものが多すぎて、テレビドラマの質に対する不信が募り、見ようという気が失せてしまった。人気者を見つけ出しては使っているだけ、他と区別のつかないようなもの、ファッションや風俗を追うだけのものが多すぎます。
 他方、映画は、DVD、WOWOWBS放送などで、しょっちゅう、CMなしの高画質で見られるようになった。さすがにつくりの細やかさ、迫力、集中力はテレビドラマでは太刀打ちできない。金や時間の掛け方が違います。

 今、テレビで見て面白いのは「スポーツ」「ドキュメンタリー」、そして「NHKのニュース」だと思いますね。元来テレビドラマ好きの私としては、その復活を願う気持ちは十二分にあるのですが、そのためにはかなりの努力と工夫、気概が必要だと思われます。