「すばる」2006/9号。吉田秀和さんのエッセイはちょっと良かったです。

 とてもひさしぶりに文芸誌「すばる」を買いました。
 購入した理由は、
1 「海亀に乗った闘牛師」(青野聰)という小説の題名に惹かれたこと。
  しかもこの小説が700枚一挙に掲載であること。
2 巻頭に吉田秀和さんのエッセイがあること。
  今や吉田さんの新しい文章を読めることは、私にとってはとても貴重なことです。
3 「生きること・本を読むこと」という大江健三郎の新連載が始まったこと。
 ついでに、島田雅彦茂木健一郎の対談が掲載されていることも付け加えます。またメールでも読めますが、池澤夏樹の「異国の客」の連載と、花村萬月の「沖縄紀行」の掲載(沖縄に弱い上花村氏との組合せが興味を惹きました)も、動機に若干作用しました。
すばる 2006年 09月号 [雑誌]

「メリー・ウィドゥのワルツ」

 吉田秀和さんには珍しく、少年時代の自らの初恋?について語っています。老人が、少年や少女の頃をどのくらいの頻度で思い出し、どんな風に懐かしく思うのか、私にはまだとんとわかりませんが、そういう頃を音楽とともに思い出してみる時間は、きっと人生の喜びの1つに違いないとは思うのです。詳細は省きますが、そんなことを思わせてくれるエッセイです。

「LP300選」

 小中高の音楽の授業と大学の一般教養でしか、音楽教育を受けたことのない私にとって、吉田秀和さんはクラシック音楽の先生です(教わったことはないですが)。新潮文庫の「LP300選」はもうぼろぼろになるほど何度も読み、赤線を引き、そこに書かれている吉田さんの文章を読んでは、学生の私は、なけなしの金を持って−−それこそ昔の子供が小銭を握り締めて駄菓子を買いに行くように−−生協のレコード売り場や、当時数寄屋橋デパートの地下にあった古レコード屋に行ったものでした。そうして買ったレコードに針を落とし音楽が流れ出した瞬間の喜びは、会社勤めを始めて、多少の経済的余裕ができて以降CDで聞いたのとは比べ物にならない濃密なものでした。
 以後、吉田さんの本を見つけては次々と読み漁りました。「レコード芸術」の「今月の一枚」もずいぶん読みました。全集が出ているので、いつかすべてを読ませていただきたいと思っています。相当な楽しみです。
 このエッセイにも出てきますが、お友達の加藤周一さんと吉田秀和さんは、何ヶ国語もあやつり、欧米の文化や歴史への造詣は、信じられないほどの深さと広がりを持っています。そして日本についても。この二人のお書きになる文章は、まったく趣が違いますが、どちらも本当にすばらしいと思います。
 特に吉田さんの音楽評論について言えば−−評論の対象は音楽にはとどまらないのですが−−、他の評論家の著書も読みましたが、少なくとも私にとっては(と一応言いますが、本当を言えば誰にとってもと言いたいくらいです)、クラシック音楽の評論家は彼一人で、まったくもって十分です。世にあまたいる音楽評論家には申し訳ないですが。