「拝啓、父上様」の最終回“ノン”スペシャルを見て。

 最近の連ドラでは、最終回は「90分スペシャル」が当たり前のようになっている。初めからそういう企画なのか、評判が良かったから急遽時間枠を拡大するのか−−あるいはそのどちらのケースもあるのかもしれない。
 たとえば直近のクールで最高視聴率だった「華麗なる一族」の場合なら、キムタク主演かつ豪華出演陣で視聴率も取れる目算があるから、それを見越してはなっからスペシャルで何の問題もなかったろうと想像される。ついでながら何十年も前の大ベストセラーが原作でかつ大ヒットドラマのリバイバルということで、話には新鮮さがなかったが、木村拓哉の演技は想像以上にすばらしかったと思う。

 そんななか今日(3月22日)最終回を迎えた「拝啓、父上様」。少なくとも私にとっては、このクールで最も見ごたえがあり、また何をおいても見る価値のあったドラマはこの一本のみであった。
 脚本はもちろん倉本聰であり、ご存知のように「前略、おふくろ様」という名作(私はあまりみなかったけど、おそらく)が昔あった。
 それはともかく、倉本聰という人が、どの程度ドラマの制作現場に「口出し」するのかわからないが、できあがったドラマのどれもが高い質を維持しているのを見れば、おそらくはかなりの部分に「口うるさく」関与しているものと思われる。「拝啓、父上様」もものすごい傑作かどうかはわからないが、佳品もしくは秀作と呼ばれるにふさわしい、丁寧に作られた心に残るドラマだと思う。

 いきなりドラマと直接関係なくて恐縮だが、まず主題歌がいい。かなりいい。今回の「パピエ」は森山良子。森山良子の硬質で明るい声は、確かにパリの下町に似合っている。今まで想像もしなかったけれど。このドラマではフレンチっぽいおしゃれな店がいくつも登場する。「キャナル・カフェ」のロケーションにはセーヌ河を思い浮かべないわけにはいかないし、ナオミがパティシエ見習いとして働く店もフランス語の名前の付いた店だった。まるでカルチェ・ラタンみたいじゃないか(よく知らないけど)。神楽坂には当然坂が多いが、これも、たとえばモンマルトルなんかを想起させられてしまう。おまけに神楽坂には日仏学院もあるらしい。神楽坂とパリの下町なんて、こうしたイメージの対応は楽しい。そしてこの雰囲気作りに「パピエ」は一役買っている。「北の国から」も倉本先生に呼ばれたさだまさしがあーだこーだ言われながらつくったということだし、今回もノータッチだったとは考えにくい。
 ちなみに私の記憶に残っている倉本作品に「とまどいトワイライト」という主題歌のドラマがあった。題名を失念してしまったがいいドラマだった。主演は大原麗子。ラジオのDJの役で、DJとしてひとしきりしゃべった後、曲をかけるんだが、その曲のレコードに針を落とすとこの主題歌が流れ出す、というような始まりの演出だったと思うのだが、それだとリクエスト曲がいつも「とまどいトワイライト」になってしまうから、そんなわけはないか。とにかくいいドラマだった。
 第二に場所の設定が小憎らしい。ありきたりの観光名所などは決して舞台とならない。しかし倉本ドラマが終わるとそこは観光名所になってしまうのである。
 第三にキャスティングが完璧である。女将の八千草薫、花板の竜さん役のの梅宮辰夫ははまりすぎだが、これがまた実にいい。高島礼子高橋克実、岸本加世子、仲居役の4人もよかった。時夫役の関ジャニ横山も坂下の一人娘エリ役の福田沙紀も初々しいだけじゃなくて、役どころにしっかりはまって存在感があった。そして最終回でこんなにせりふがあると思ってなかったが奥田瑛二は、なるほどかっこよかった。
 そして何より新人女優が特に美しく輝いてしまう。黒木メイサである。初めて登場する坂で林檎の箱をひっくり返すシーンでまず、その美しさに打ちのめされる。CMなんかでは見たことがないわけじゃないのに。このあたりの手腕が倉本聰の真骨頂だと思う。「北の国から」の横山めぐみもそうだったなあ。
 だがしかし、このドラマの主人公は「一平」であり、一平役の嵐・二宮和也がそこにいたことが重要だったのかもしれないと最終回まで見て思った。彼の抑えた演技、目立たないけど見るものをぐっとひきつけていく確かな存在感。彼が真ん中にいることで、周りの役者の動きや心理がより鮮やかさを増してゆくようなそんな役者なのかもしれない。蜷川幸雄倉本聰が「こいつに主役をやらせたい」「この役にはお前しか考えられない」というわけだから、ただものではないのだろう。

 そして最終回もきっちり54分で終わってしまい、視聴者にもスポンサーにもテレビ局にも媚びないところが(本当にそういうことがどうかは知りません)またすばらしかった。「拝啓、倉本先生」ぜひ続編をお願いします。