加藤周一さんのご冥福をお祈りいたします。

 突然の訃報にとにかくびっくりしました。私は加藤周一さんのいい読者とは言えませんが、たとえば朝日新聞不定期で掲載されていた「夕陽妄語」を通じて、また「羊の歌」を通じて、また吉田秀和さんや大江健三郎の書いた文章を通じて接していました。その教養の広さ・深さが破格であることにだれもが驚嘆し大いなる敬意を表していました。あの浅田彰をして「最後の正統派知識人」と言わしめ、「加藤さんの死で、『基準』が失われた」とまで言わせてしまう人はあまりいないでしょう。
 私のような凡人があと何百年生きようと身につけることはできないと思われるようなこれほどの知性にしても、死というものがそのすべてを根こそぎ奪い去ってしまう。文字というものをもたなかったら人類はまた一からやり直さなくてはならないし、いずれにしてもそのすべてを受け継ぐことはできない。加藤さんの偉大さゆえに逆に人間の卑小を思いやるのでした。
 「日本文学史序説」を生きていらっしゃるうちに読めなかったのが残念です。謹んでご冥福をお祈り申し上げます。