「13歳は二度あるか」  吉本 隆明著

「13歳」へのプレゼントには不向きかもしれない

13歳は二度あるか―「現在を生きる自分」を考える
 今年13歳になる姪がいて、彼女にプレゼントしようと思って読み始めた。しかし、読み終えてみて、プレゼントしようかどうか迷っている。
 内容的には人が生きていくうえで最も重要なテーマをいくつも含んでいる。文章的には確かに「中学生向け」に言葉を選んで平易な表現をしていると思う。しかし、平易で簡略な説明に徹している分突込みがどうしても足りないので、13歳の多くの読者にとっても十分に理解することや興味を持って読み進むことができるだろうかと思った(ついでに言えば、この本の中では最もどうでもよいような現実的な話題である「万引き」についての文章は言葉足らずなために誤解を生んでしまいかねないし、「子供の育て方」についての吉本の「確信」の根拠はイマイチよくわからない)。
 私が13歳の中学生に対してまずアドバイスしたいことは、「何事も自分で考え、判断することが何より大切」ということだ。この本で吉本が言っていることと完全に重なる。
 また、フーコーを引き合いに出して「死」は「生」と別の系列である、「死は残された人たちに帰属する」から、「死ぬ本人にはコントロールできない」という考えもまた、デリダの死の直前のインタビューでの発言などにも通じ、興味深い。
 細かいところはともかく、私は吉本のこの本での発言の趣旨に概ね賛成だし、「死の間際まで、自分の中の矢印を生の方向へ向けておくべきだと思う」(P.151)と語る、老思想家の誠実な主張に賛意を表するものである。
 だからこそ、13歳の読者が「つまらない」とか「わからない」で、途中でやめてしまうようなことになるのは実にもったいないと思う。これは誰かから与えられる本ではなく、機が熟したら自ら掴み取りに行くような類の本であるのかもしれない。

(初出 BK-1 2007/05/21)